コーチング 心理学

エリクソンの社会的発達理論とは?一生を通じて人は何を学ぶのか

この記事は約7分25秒で読むことができます。

社会的発達理論

はじめに:人生は「課題」の連続

私たちは人生を通じて、さまざまな悩みや課題に直面します。たとえば、「人を信じていいのか?」「私は誰なのか?」「このままの生き方でいいのか?」といった問いは、多くの人が一度は感じるものでしょう。

こうした問いに対して、心理学者エリク・H・エリクソン(Erik H. Erikson)は、人間の発達には社会的な課題と心理的な成長が密接に関係していると説きました。彼の理論は「心理社会的発達理論(Psychosocial Development Theory)」と呼ばれ、一生を8つの段階に分け、それぞれに克服すべき課題(crisis)があるという枠組みです。

本記事では、エリクソンの社会的発達理論の全体像と各段階の特徴、現代への応用までを分かりやすく解説します。


1. エリクソンとは?

エリクソン(1902〜1994)はドイツ生まれのアメリカ人心理学者で、フロイトの精神分析理論を継承しつつ、それを社会的視点から発展させた人物です。彼はアイデンティティ(自己同一性)という概念を心理学の主題に押し上げた功績でも知られています。

エリクソンは、フロイトの精神分析理論を土台にしつつ、社会的・文化的な要因を重視して理論を発展させた心理学者です。フロイトの考えを修正した「ネオ・フロイディアン」として分類されることもあり、カレン・ホーナイやサリヴァン、フロムと並んで、社会的関係性に焦点を当てた点が独自性とされています。

※ユングやアドラーもフロイトに影響を受けつつ独自理論を展開しましたが、一般には「ネオ・フロイディアン」よりも独立した流派と見なされることが多いです。


2. 社会的発達理論の基本構造

エリクソンは、発達を乳児期から老年期までの8段階に分類し、各段階で「心理社会的課題」があるとしました。

各段階の構成要素:

  • 年齢期(おおよその年代)
  • 発達課題(crisis)
  • 成功した場合に得られる「徳(virtue)」
  • 失敗した場合に生じる問題

3. 各段階の課題と獲得される人格的活力(徳)

第1段階:基本的信頼 vs 不信(0〜1歳)

獲得される徳:希望(Hope)

生まれて最初の課題は「この世界は信頼できるか?」という問いです。母親など養育者からの安定した愛情と世話を受けることで、子どもは安心感を獲得します。

  • 肯定的な経験 → 人や社会を信じる基盤が形成される
  • 否定的な経験 → 不安や恐れ、猜疑心が根づく

▶︎ 希望とは、「困難の中でも世界には意味がある」と信じられる心の力です。


第2段階:自律性 vs 恥・疑念(1〜3歳)

獲得される徳:意志(Will)

この時期の子どもは、自分の身体や行動をコントロールしようとし始めます(トイレトレーニングなど)。失敗を咎められずに見守られることで、自律性を育みます。

  • 肯定的な経験 → 自分でできるという自信と自立心
  • 否定的な経験 → 恥ずかしさや疑い、不安

▶︎ 意志とは、「自分で決めて、自分でやってみよう」と思える力です。


第3段階:自主性 vs 罪悪感(3〜6歳)

獲得される徳:目的(Purpose)

好奇心が活発になり、想像遊びや「〜ごっこ」によって社会的なルールを学ぶ時期。行動に対して過剰に叱責されると「してはいけない」ことばかりが増え、自主性が抑制されます。

  • 肯定的な経験 → 自分から行動する喜び、責任感
  • 否定的な経験 → 行動に対する罪悪感、萎縮

▶︎ 目的とは、「意味ある行動を自分で選び、それに向かって行動できる力」です。


第4段階:勤勉性 vs 劣等感(6〜12歳)

獲得される徳:有能感(Competence)

学校生活を通じて、「やればできる」という経験を重ねる時期。努力が認められることが重要です。他人と比較されすぎると劣等感に苛まれることもあります。

  • 肯定的な経験 → 努力と成果の関連性を実感し、自己効力感が育つ
  • 否定的な経験 → 自分はできないという無力感

▶︎ 有能感とは、「挑戦に立ち向かい、結果を出す自分への信頼」です。


第5段階:アイデンティティ vs 拡散(12〜18歳)

獲得される徳:忠誠(Fidelity)

思春期における最大のテーマは「私は誰か?」です。価値観や将来の方向性を模索するなかで、自分なりの答えを見出せるかが鍵になります。

  • 肯定的な経験 → 自己に一貫性を感じられ、他者とも誠実な関係を築ける
  • 否定的な経験 → 進路や人間関係における混乱、役割の迷い

▶︎ 忠誠とは、「自分が信じた価値や人に誠実であり続ける姿勢」です。


第6段階:親密性 vs 孤立(18〜40歳)

獲得される徳:愛(Love)

自己を確立した後に重要となるのが、他者との深い関係性です。相手と心を開いて関わることができるか、それとも孤独を選ぶか。

  • 肯定的な経験 → 支え合える関係性を築き、共に生きる感覚を得られる
  • 否定的な経験 → 他者への不信や自己閉鎖

▶︎ 愛とは、「自他の違いを受け入れながら関係を育む力」です。


第7段階:生殖性 vs 停滞(40〜65歳)

獲得される徳:世話(Care)

中年期における発達課題は、「次世代への貢献」です。子育てや社会活動、仕事の継承など、他者の成長に関心を向けることで、自己の拡大が起こります。

  • 肯定的な経験 → 社会的・家庭的役割に誇りを持ち、充実感を得る
  • 否定的な経験 → 無気力や自己中心的な停滞感

▶︎ 世話とは、「他者や社会のために手を差し伸べる力」です。


第8段階:統合性 vs 絶望(65歳〜死)

獲得される徳:知恵(Wisdom)

人生の終盤に、自分の過去を振り返り、「意味ある人生だった」と感じられるかどうかが最終課題となります。

  • 肯定的な経験 → 過去の苦しみも含めて肯定できる
  • 否定的な経験 → やり残しへの後悔、死への恐れ

▶︎ 知恵とは、「生と死を統合し、人生を包括的に理解する力」です。

8つの発達段階の表一覧

段階年齢発達課題獲得される「人格的活力(徳)」
第1段階0〜1歳基本的信頼 vs 不信希望(Hope)
第2段階1〜3歳自律性 vs 恥・疑念意志(Will)
第3段階3〜6歳自主性 vs 罪悪感目的(Purpose)
第4段階6〜12歳勤勉性 vs 劣等感有能感(Competence)
第5段階12〜18歳アイデンティティ vs 拡散忠誠(Fidelity)
第6段階18〜40歳親密性 vs 孤立愛(Love)
第7段階40〜65歳生殖性 vs 停滞世話(Care)
第8段階65歳〜死統合性 vs 絶望知恵(Wisdom)

4. エリクソン理論の応用例

教育分野

児童や生徒が現在どの発達段階にいるかを理解することで、教師は適切な支援ができるようになります。たとえば、第4段階の子どもにとっては、「努力したことを肯定的に認める」ことが自信形成に繋がります。

コーチングやキャリア支援

第5段階や第7段階にいる人は、自己理解や社会的貢献の模索に苦しむことがあります。コーチングでは、こうした課題に気づき、言語化し、行動を促す支援が効果的です。

高齢者福祉・看護

第8段階の高齢者に対しては、「過去を語る場」を設けることが、統合感(integrity)を深める手助けになります。これを「ライフレビュー」と呼び、介護や終末期医療でも活用されています。


5. 現代社会における新しい課題

エリクソンの理論は20世紀半ばに発表されたものですが、21世紀の現代にもその有効性は十分にあります。ただし現代社会では以下のような「段階のズレ」や「再帰的な課題」が目立ちます。

  • 青年期の長期化(パラサイト・シングルやフリーター問題)
  • アイデンティティの迷いが中年以降まで持ち越される
  • SNSなどによる外部評価の肥大化が発達課題の混乱を招く

これらは、エリクソンの理論をさらに拡張・解釈する視点が必要であることを示しています。


6. 批判と限界

エリクソンの理論にはいくつかの批判もあります。

  • 文化的バイアス:西洋文化(特にアメリカ)を前提とした価値観
  • 性別の偏り:主に男性の発達過程に基づいたモデルであること
  • 段階が一方向であることへの疑問:人生の再スタートや多様なライフコースへの対応が弱い

しかし、それでも彼の理論が今なお用いられているのは、「人は一生をかけて発達し続ける存在である」という視点が、時代を超えて共感を呼ぶからです。


おわりに:人生は問いかけと統合の旅である

エリクソンの社会的発達理論は、単なる心理学の知識にとどまりません。それは、「今、自分が人生のどこにいるのか?」「どんな課題に向き合っているのか?」という問いを私たちに投げかけてくれます。

人生には、立ち止まる時期、迷う時期、やり直す時期が何度も訪れます。そのたびに、エリクソンの理論は、私たちが自己理解を深め、より良く生きるヒントを与えてくれるのです。


個別無料説明会(オンライン)について

嫌われる勇気

ライフコーチングを受けたい方はオンライン無料説明会へお申し込みください。

エリクソンの社会的発達理論とは?一生を通じて人は何を学ぶのか
コーチ刈谷

説明会は代表の刈谷(@Yosuke_Kariya)が担当します!お待ちしています!


コーチング有料体験について

実際にコーチングを体験してみたい方向けに、有料のコーチング体験も用意しております。ご興味のある方は以下をクリックください。

コーチング体験
コーチング体験(有料)| ライフコーチング |【東京・コーチ歴13年・実績2900時間】

この記事は約4分3秒で読むことができます。 目次 / Contents コーチング体験(有料)のお申し込みページへようこそ!対象クライアント様代表コーチ刈谷洋介のご紹介体験セッションの流れコーチング有 …


コーチングYouTube配信中!

-コーチング, 心理学
-

© 2025 COACHING-L