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はじめに:なぜ「意味」が健康心理学において重要なのか?
私たちは、人生において避けがたい困難——大切な人の死、重篤な病気、災害や喪失——に直面することがあります。こうした出来事は、それまで信じていた「世界は公正だ」「健康に気をつけていれば病気にならない」といった信念を根底から揺るがすことがあります。
このとき人は、本能的に「なぜこんなことが起きたのか」「この出来事にどんな意味があるのか」と問い始めます。この「意味づけ」のプロセスが、私たちの心の回復や成長と深く関係していると考えるのが、「意味づけモデル(Meaning Making Model)」です。
1. 意味づけモデル(Meaning Making Model)とは?
1.1 グローバルな意味と状況的意味
意味づけモデルは、グローバルな意味(global meaning)と状況的意味(situational meaning)の2つを区別します。
- グローバルな意味:人生に対する基本的な信念や価値観(例:「努力すれば報われる」「人生には意味がある」)
- 状況的意味:特定の出来事に対する意味づけ(例:「なぜ私ががんになったのか」)
これら2つの間に矛盾(discepancy)が生じると、人は苦しみを感じ、意味づけを通じて再び一致させようとします。
1.2 意味づけの方法:同化と調節
矛盾を解消するための方法は主に2つです。
- 同化(assimilation):出来事の意味を変えて、今の信念に合わせる(例:「がんになったのは、もっと人生を大切にするためのサインだった」)
- 調節(accommodation):信念や目標のほうを見直す(例:「健康に気をつけていても病気になることがあると学んだ」)
このようにして、私たちは心の中で出来事を「納得可能なもの」へと変えていきます。
2. 健康心理学における意味づけの意義
2.1 グローバルな意味と健康の関係
研究によれば、次のようなグローバルな意味が健康状態と関連しています:
- 自己効力感・コントロール感:自分の人生をコントロールできていると感じる人ほど、寿命が長く病気になりにくい傾向があります。
- 目標追求:意味のある目標を持つ人は、健康行動(運動、禁煙など)を維持しやすい。
- 人生の意味感:人生に目的や意味を感じている人ほど、心理的・身体的健康が高い。
2.2 スピリチュアリティの役割
スピリチュアリティは、グローバルな意味の中核を成す要素のひとつです。
- 信仰や宗教的価値観(例:神の存在、カルマ、輪廻)を通じて、「なぜ生きるのか」「人生とは何か」に意味を見出します。
- これにより、病気や逆境を「成長の機会」や「試練」として再解釈できる可能性があります。
3. 病気との向き合い方と意味づけ
3.1 病気による意味の揺らぎ
重い病気を診断されると、多くの人は以下のようなグローバルな意味が揺らぎます:
- 「私は健康に気をつけているから大丈夫」という信念
- 「世界は公正で予測可能である」という信念
- 「自分には未来の計画がある」という目標
このような信念と現実とのギャップが、苦痛や抑うつを引き起こします。
3.2 意味づけを通じた回復プロセス
意味づけの成功によって以下の変化が見られることがあります:
- 病気を再解釈する(同化):「この病気を通じて、自分の生き方を見直す機会を得た」
- 価値観や目標の見直し(調節):「仕事よりも家族との時間を大切にしたいと思うようになった」
研究によれば、がんや心疾患、脊髄損傷などを経験した人が、意味づけに成功した場合、うつの軽減やQOL(生活の質)の向上が見られています。
4. ストレス関連成長(Stress-Related Growth)とスピリチュアリティ
4.1 ストレス関連成長とは?
ストレス関連成長とは、逆境を通じて得られるポジティブな変化のことです。
具体例:
- 人間関係:「家族との絆が深まった」
- 自己変容:「忍耐力がついた」「今の自分に誇りを持てる」
- 人生観の変化:「命の尊さを感じた」
- スピリチュアルな気づき:「神に近づいたと感じる」「内面的に豊かになった」
4.2 スピリチュアリティとの関係
スピリチュアリティは、以下の点でストレス関連成長を促進すると考えられています:
- 病気の意味を「試練」「贈り物」「浄化」などポジティブに再構築しやすい
- 宗教的コミュニティや儀式が心理的支えとなる
- 新たな価値観や人生の方向性を与えてくれる
一方で、神を「罰する存在」として捉えるなど、ネガティブな宗教的対処をすると、適応を妨げる場合もあると報告されています。
5. 今後の研究と臨床応用の展望
意味づけと健康の関係は示唆的ではあるものの、因果関係を示すにはさらなる研究が必要です。特に以下のような研究が求められています:
- 診断直後からの意味の変化を追う縦断研究
- スピリチュアリティの多面的評価(ポジティブ・ネガティブ両面)
- 意味づけを促進する心理的介入の開発(例:ナラティブ・セラピー、スピリチュアルケア)
意味づけモデルは、単なる理論ではなく、苦しみの中で「人間としてどう生きるか」を支える実践的な枠組みでもあります。
おわりに:意味を見出すことは癒しの第一歩
ストレスや病気を「ただの不幸」として受け止めるのではなく、「意味のある出来事」として再構築することは、心理的な回復だけでなく人生全体に深い影響を与えます。
意味づけモデルは、私たちが生きる上で直面する問い、「なぜこれが自分に起こったのか?」「これをどう受け止めるべきか?」に対して、ひとつの地図を提供してくれるものです。
参考文献
Park, C. L. (2013). The Meaning Making Model: A framework for understanding meaning, spirituality, and stress-related growth in health psychology. European Health Psychologist, 15(2), 40–47.
Retrieved from https://www.ehps.net/ehp
コラム:スピリチュアリティとは何か?
本ブログで使用している「スピリチュアリティ」は、単なる宗教信仰(religion)とは異なり、人間が人生における究極的な意味、目的、価値を追求する心の在り方や経験全体を指します。これは以下のような広い意味を含みます:
- 自分の人生や存在に「何か大きな意味がある」と感じること
- 神や宇宙、自然など「超越的なもの」とのつながりを求める気持ち
- 生きる目的や価値を内面的に見出そうとする姿勢
- 苦しみの中に意味や成長の可能性を見出そうとする探求心
たとえば、「神様が自分にこの試練を与えたのは意味があるに違いない」と考えることもスピリチュアリティの表れですし、「人生の本質とは何か?」と問う哲学的な探求もスピリチュアリティの一部です。
宗教との違いは?
スピリチュアリティ | 宗教(Religion) |
---|---|
個人の内面の探求や感覚 | 組織化された信仰体系や儀式 |
「自分にとっての意味」 | 教義や戒律によって定められた意味 |
宗教的でも非宗教的でもよい | 通常は神や教祖などへの信仰を含む |
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