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はじめに:なぜ「実存的空虚感」がいま重要なのか
現代社会において「生きづらさ」を感じる人は少なくありません。仕事はある、家もある、SNSでは人とつながっている――それでも、どこか満たされない。こうした感覚は、ヴィクトール・フランクルが「実存的空虚感(Existential Vacuum)」と呼んだ現象に通じます。
本記事では、フランクルの提唱した実存的空虚感の概念を中心に、その背景、現代との関係、そして克服のためのヒントについて解説します。
1. ヴィクトール・フランクルとは誰か?
ヴィクトール・フランクル(Viktor E. Frankl, 1905-1997)は、オーストリア出身の精神科医・心理学者であり、「ロゴセラピー(Logotherapy)」の創始者です。第二次世界大戦中、アウシュビッツなど複数の強制収容所に収容され、家族を失うという過酷な体験を経て、「人はどんな状況でも生きる意味を見出すことができる」という思想を確立しました。彼の代表作『夜と霧(Man’s Search for Meaning)』は、世界中で1000万部以上が読まれ、実存心理学における金字塔とされています。
2. 実存的空虚感とは何か?
定義
実存的空虚感とは、人生の意味や目的が見出せず、虚無感・無気力・退屈に支配される状態を指します。フランクルによれば、これは単なる心理的な落ち込みではなく、「人間の実存的な問題」であり、現代人特有の病ともいえる現象です。
特徴
- 意欲の喪失(何もやる気が起きない)
- 深い退屈感
- 社会的な役割の空虚化(「何のために働いているのか分からない」)
- 無意味な快楽追求(アルコール、セックス、SNS、過食などに依存)
3. なぜ実存的空虚感は現代に蔓延するのか?
3-1. 伝統的価値観の崩壊
かつての社会では、宗教・家族・地域社会などが人生の意味を提供してくれていました。しかし、近代以降、それらの権威が相対化され、個人が「自分で意味を見つけなければならない」時代となりました。
3-2. 「欲望の飽和」と「目標の喪失」
経済的に豊かになった現代では、多くの物が手に入り、欲望は次々に満たされていきます。すると、「何のためにこれをするのか?」という問いに答えられなくなるのです。
3-3. フランクルの言葉より
「人間は快楽や権力を求める存在ではなく、“意味”を求める存在である」
― ヴィクトール・フランクル
4. 実存的空虚感が引き起こす問題
実存的空虚感が長引くと、以下のような問題が生じやすくなります。
- うつ病や不安障害:人生の意味がないという認知は、絶望感を深めます。
- 依存症や逸脱行動:空虚感から逃れるために、刺激の強い行動に依存するようになります。
- 燃え尽き症候群(バーンアウト):やりがいを感じられないまま働き続けることで、心がすり減ってしまいます。
5. フランクルの処方箋:ロゴセラピーと意味の発見
5-1. ロゴセラピーの基本原則
フランクルは、実存的空虚感に対抗する手段として「ロゴセラピー(意味療法)」を提唱しました。ロゴ(Logos)とはギリシャ語で「意味」を意味します。
ロゴセラピーでは、人間の主な動機を「意味への意志(Will to Meaning)」と捉えます。
5-2. 意味は三つの道から見出せる
フランクルは、人生の意味は以下の三つの道から発見できると述べています。
- 創造的価値(仕事・芸術・貢献などを通して)
- 体験価値(愛・自然・音楽やアートなどの体験を通して)
- 態度価値(避けられない苦しみにどう向き合うかという態度を通して)
5-3. 苦しみに意味を見出す
フランクルが強調したのは、「たとえ苦しみの中でも、そこに意味を見出せる限り、人は生き延びられる」という点です。実際、強制収容所の極限状態においても、生きる意味を持っていた者は生き残る可能性が高かったと述べています。
6. 実存的空虚感をどう乗り越えるか?現代人へのヒント
6-1. 小さな意味から始める
大きな人生の意味をいきなり見つけようとせず、日々の小さな意味(誰かを笑顔にする、朝日を見る、植物に水をやる)を見つけることが第一歩です。
6-2. 自分の「態度」を問う
苦しみや困難を「意味のある挑戦」と捉えることができるか。フランクルは「態度の自由」は最後まで人間に残された選択だと述べています。
6-3. 他者との関係に意味を見出す
孤独を避け、信頼できる人との関係の中に自分の存在価値を感じられることも、空虚からの脱出につながります。ときには、他者に尽くすことが自分を救うことになります。
7. 現代社会における実存的空虚感の事例
- キャリア迷子の若者:「何のために働いているか分からない」「やりたいことが見つからない」
- 定年退職後の喪失感:「役職を離れてから、何をしていいか分からない」
- SNS依存の若者:「リアルの自分に意味を見出せず、フォロワー数や“いいね”に価値を求める」
いずれも、「意味の喪失」が根底にあると言えます。
8. フランクルの思想はコーチングや教育にも応用できる
近年、コーチングやキャリア教育においても、フランクルの思想は注目されています。単なる目標達成支援ではなく、「人生の意味を問う支援」こそが、本質的なサポートとなるからです。クライアントが「何のためにその目標を追うのか」を見出せたとき、モチベーションは外発的な報酬以上の力を持ちます。
おわりに:意味が見つかれば、人はどこまでも生きられる
ヴィクトール・フランクルは、極限の体験を通して「人間は意味を必要とする存在である」と喝破しました。物質的に満たされた現代において、私たちはますます「意味」という無形の価値を求めています。
もしあなたが、ふとした瞬間に虚しさを感じたなら――それは、あなたが「意味ある人生」を望んでいる証拠です。そして、その答えはあなたの内側に必ずあるのです。
参考文献
- フランクル, V.E.(2002)『夜と霧 新版』みすず書房
- フランクル, V.E.(2010)『死と愛 新装版』みすず書房
- フランクル, V.E.(2020)『ロゴセラピーのエッセンス 18の基本概念』ナカニシヤ出版
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