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はじめに
ヘレン・ケラー(Helen Keller, 1880–1968)は、視覚と聴覚を失いながらも教育家・社会活動家として世界に大きな影響を与えました。
このブログではヘレン・ケラーの生涯とその思想の核心を示す、1903年に発表されたエッセイ 『Optimism: An Essay(楽観主義)』 を紹介します。本記事では、Part I「個人における楽観主義」 を全文英日対訳で紹介します。どうぞご覧ください。
ヘレン・ケラーの生涯
ヘレン・アダムス・ケラー(Helen Adams Keller, 1880–1968)は、アメリカ・アラバマ州タスカンビアに生まれました。生後19か月のとき、高熱による病気のために視覚と聴覚を失い、幼少期は「闇と沈黙の世界」の中で過ごしました。家族もどのように彼女に教育を与えればよいのか分からず、周囲からは「知性を育てることは不可能」と見なされることもありました。
しかし、彼女の人生を大きく変えたのが、家庭教師として派遣されたアン・サリヴァン(Anne Sullivan)との出会いです。サリヴァンは、手のひらに文字を綴る「フィンガー・スペル」を用いてヘレンに言葉を教えました。やがてヘレンは「水(water)」という言葉と、冷たい水の感覚を結びつけることに成功します。この瞬間は、彼女が世界と再びつながる第一歩となりました。
その後、ヘレンはサリヴァンの指導のもと、驚異的な学習の歩みを続けました。点字や触覚を使って読み書きを習得し、ついにはハーバード大学ラドクリフ・カレッジに進学。1904年、視覚と聴覚に重い障害を持ちながら学位を取得した初の人物となりました。
学業を終えたケラーは、教育家・作家・社会活動家として幅広く活動しました。彼女は障害者の教育や社会参加の重要性を訴えると同時に、女性参政権運動や平和運動、労働者の権利擁護など、社会全般にわたる改革活動にも積極的に参加しました。単なる「障害を克服した人」という枠を超え、人類の可能性と尊厳を語る存在となったのです。
また、世界各国を訪れ、講演活動や福祉活動を展開しました。日本にも3度訪れており、特に戦後の訪問では、障害を持つ人々に大きな励ましを与えました。彼女の来日は、当時の日本社会に「障害があっても人は学び、働き、生きる喜びを見出せる」という強いメッセージを残しました。
1968年、87歳でこの世を去りましたが、その生涯は「逆境の中にあっても、希望を失わない」という人間の強さを世界に示し続けました。彼女の言葉と行動は、今なお多くの人に勇気とインスピレーションを与え続けています。
Part I Optimism Within(個人における楽観主義)
原文1
Could we choose our environment, and were desire in human undertakings synonymous with endowment, all men would, I suppose, be optimists. For everyone cherishes the hope of a better life, and the possibility of attainment is always alluring.
日本語訳1
もし人が自分の環境を自由に選び、望みがそのまま才能として与えられるのなら、誰もが楽観主義者になっただろう。なぜなら誰もが「より良い人生」を望み、その可能性に惹かれるからだ。
原文2
But if we cannot choose our environment, we can choose the spirit in which we face it. The optimist may not live longer than the pessimist, but he will live more happily, and to him life will be worth living.
日本語訳2
しかし環境を選べなくても、それに向き合う心の持ち方は選べる。楽観主義者が悲観主義者より長生きするとは限らない。だが、より幸せに生き、人生に価値を見いだすのは楽観主義者だ。
原文3
I know what evil is. Once or twice I have wrestled with it, and for a time felt its chilling touch. But I found that evil is not a permanent state. Happiness is possible even amid suffering.
日本語訳3
私は不幸や悪というものを知っている。実際にそれと格闘し、その冷たい手に触れたこともある。けれども私は気づいた──悪は永遠に続くものではない。苦しみの中にあっても、幸福を見いだすことはできるのだ。
原文4
If I am happy in spite of my deprivations, if my happiness is so deep that it is a faith, so thoughtful that it becomes a philosophy of life, if in spite of adversity I have attained contentment, then optimism is the faith in which I live.
日本語訳4
欠乏の中にあっても幸せであり、その幸せが信念となり、人生の哲学となるほど深いものであり、さらに逆境にあっても心の充足に達しているなら──私の生の基盤はまさに楽観主義という信念である。
原文5
Optimism is the faith that leads to achievement; nothing can be done without hope and confidence.
日本語訳5
楽観主義とは、成就へと導く信念である。希望と自信なくして成し遂げられることは、この世には一つとしてない。
原文6
I look upon the world with faith in it, because I have confidence in the power of will and work. I see that the world is advancing, and I know that however much it may lag behind for a time, it will ultimately go forward.
日本語訳6
私は世界を信頼をもって見つめる。なぜなら、意志と努力の力を信じているからだ。世界は前進しており、一時的に遅れを取ることがあっても、最終的には必ず進んでいくと私は知っている。
原文7
I know that evil is transitory. It is neither consistent with man’s nature nor with the law of the universe. Evil is a condition of blindness, and as soon as man opens his eyes he sees that it is unreal.
日本語訳7
私は、悪は一時的なものにすぎないと知っている。それは人間の本性にも、この宇宙の法則にも一致しない。悪とは「盲目の状態」であり、人が目を開いた瞬間、それが虚しい幻想であることに気づくのだ。
原文8
The optimist believes, against all odds, that good is the reality. He clings to the faith that the world is moving toward the better. And in this faith lies his strength and his peace.
日本語訳8
楽観主義者は、逆境にあっても「善こそが現実である」と信じる。世界はより良きものへと進んでいるという信念にしがみつく。その信念こそが、彼の力となり、心の安らぎとなるのだ。
原文9
To my thinking, pessimism is a waste of time. To wallow in despair, to see only the shadow, is to live half a life. But optimism makes the most of every day; it is a wholesome tonic that sweetens existence.
日本語訳9
私の考えでは、悲観主義は時間の浪費である。絶望に沈み、影ばかりを見る生き方は「半分の人生」にすぎない。だが楽観主義は、毎日を最大限に生かす。人生を健やかに、そして甘美にする活力の源なのだ。
原文10
It is true that optimism does not save us from sorrow, but it helps us to bear sorrow with serenity. It does not ward off suffering, but it teaches us how to make suffering contribute to our development.
日本語訳10
確かに楽観主義が悲しみを消し去るわけではない。だがそれは、悲しみを穏やかに受け止める助けとなる。苦しみを避けることはできないが、それを成長へと役立てる方法を教えてくれるのだ。
原文11
Thus optimism is not a shallow cheerfulness. It is a deep-seated faith, a philosophy of courage and hope. It is the very marrow of a life well lived.
日本語訳11
したがって、楽観主義とは表面的な陽気さではない。勇気と希望に根ざした深い信念であり、人生を豊かに生きるための真髄そのものである。
まとめ(Part I)
楽観主義とは、ただの気休めや根拠のない楽天さではありません。
それは、人生のどんな嵐にも揺るがない「深い信念」なのです。
悲観主義は私たちの視野を狭め、人生を半分しか味わえなくしてしまいます。
けれども楽観主義は、たとえ苦しみの中にあっても、その経験を糧に変え、成長へとつなげてくれるのです。
光も音も失いながら、それでも未来を信じたヘレン・ケラー。
彼女の人生そのものが、楽観主義の力を雄弁に物語っています。
※本記事で掲載している 『Optimism: An Essay』(Helen Keller, 1903)の原文はパブリックドメイン であり、著作権の保護期間を満了しています。また、本記事の日本語訳は既存の邦訳書を利用したものではなく、本サイト運営者による新規の翻訳です。したがって、本ブログ記事は著作権法に基づき合法的に公開されています。
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