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傾聴とは何か?部下が心を開くコミュニケーションを解説
こんにちは。COACHING-L代表の刈谷です。ビジネス環境において昨今最も注目されている概念の一つでもある心理的安全性、実はこの心理的安全性と傾聴には大きな関係があります。プロのコーチとして活動する中、多くのマネジメントの方々が部下との関係性に悩まれています。本日はその解決策の突破口として傾聴の効果やその他のコミュニケーションについて考察します。一般的なコーチングやカウンセリングにおける傾聴という技術に加え、自身のマネジメント経験から記事をまとめていますので是非ご覧ください。
まずは、信頼関係の構築
コミュニケーションの基本は信頼関係です。社長や上司がどんなに正論を振りかざしても、信頼関係がなければ残念ながら言葉は届きません。権限があれば人が動いてくれると思っている方が時折いらっしゃいますが、人間は感情の生き物であり、権威性と信賞必罰だけでは限界があります。信頼関係の構築にはまず上司自身が自らを磨き続けることが大切です。これはスキルだけではありません。プレイヤーとして優秀でも、マネジメントの能力が低いという例は枚挙にいとまがありません。これは会社の評価制度やカルチャーにも課題があると思いますが、まずは上司自身が、人は個別性があり唯一性があり、価値観も強みも全員違うという認識を持ち、受け入れることが大切です。
例えば、能力の高いプレイヤー出身の上司は、部下が自分と同じことが出来ないことに苛立ちを覚えることが多いと思います。ですが、違う人間なのだから当然であり、強みも弱みも違う人間に同じことを求めること自体に無理があります。では、どう対応すれば良いのか。その答えは、まず、上司自身が自己認識を深めることです。自分がどんな人間であり、どんな価値観や強みを持っており、何故自分が上司にアサインされたのか、何を期待されているのか、そしてどんな強みを活かしてきたのかなどをしっかりと言語化し、自分自身の個性を尊重できる自己受容力を高める必要があります。自分の個別性や強みを認識できると、自然と他者の個別性にも関心が湧き、他者を受け入れられる土壌が育ちます。他者との信頼関係の構築はまずは、自らを知ることから始まるのです。
部下の話を7割聴く
国際コーチング連盟のコーチに求められる基準として、コーチングセッションの時間は7割以上クライアントが話すことが基本となっています。この考えを部下との1 on 1に応用すると、まずは7割程度の時間を部下の話に耳を傾けることです。上司と部下という伝統的な”縦の関係”で上から目線で対峙するのではなく、是非対等な”横の関係性”を意識して耳を傾けてください。上長は自分の立場は役割であり、権力を濫用するためにあるわけではないという意識を持つことが大切です。こういう話を聴くと、「そのような関わりでは部下から舐められる」と感じるマネジメントの方もいるかもしれません。ですが、本当にそうでしょうか。個人的意見としては、その理由は自分と向き合っていないからであり、対等な関係性だから舐められているわけではないと思います。自分の技術だけでなく、人間性を磨き続ける上司を見て、見下すような部下がいるでしょうか。それであればその部下の態度と考え方に問題があり、そういったケースであれば毅然とフィードバックすれば良いでしょう。また、対等な関係性とは何も言わないことではありません。リソースや知識が足りていなかったり、規律を乱す部下には教育も必要です。対等な関係性とは、部下の権威や甘やかしに対する依存の回避、自立性の促進、自己効力感の向上などを目的にしており、わがままに振る舞ったり、組織の規律を乱すことを許容するものではありません。まずは横の関係を意識し、心から耳を傾けることから始めてみてください。一方、個々人の態度や行動によって関わり方の調整は必要です。
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口を挟まない
部下が話をしている時には、出来る限り口を挟まないよう心がけてください。人は話をしながら気付きが促進されたり、考えが整理されたりするという特性があります(オートクライン効果)。また、信頼している人に話を聴いてもらうという行為自体が、心理学的にも神経科学的にも精神衛生に非常に良い効果があります。部下の言語的部分だけでなく、非言語的部分にも意識を集中させ、特段の意図がない限りは口を挟まないでください。権威的姿勢で話を聴くのではなく、温かく受容的な雰囲気で心理的安全性を確保しながら聴くことが大切です。指示ばかりのコミュニケーションでは、部下は自立性を失い、依存的になり、他責思考が強化される恐れがあるので注意が必要です。人の話を聴けないという方は、是非意識してみてください。
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オートクライン効果:コーチングにおける自己認識の高め方
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相手に関心を持つ
部下の人生や目標に関心を持つことも非常に重要です。部下に関心を持つことで、自然と質問が生まれ、会話が弾みます。部下がどんな人生を生きたいのか、どんな目標を達成したいのかなどを把握することで、支援できる幅も広がります。また、部下は仕事だけで悩んでいるわけではありません。あなたと同様、プライベートでも様々な悩みを抱えています。職場で仕事以外の悩みを聴く必要はないという人もいますが、本当にそうでしょうか。もちろんこれは人によって価値観が違うので良い悪いはありません。しかし、人によっては、言葉にしたい人もいるでしょう。もちろん、こういった役割を私のようなプロの社外コーチに任せることも選択肢として有効です。部下が上司に私的なことを話すには限界があるかもしれません。また、プライベートの問題は会社は解決できないというポリシーがあっても不自然ではありません。ですが、耳を傾けようとする態度があることがどれだけ有難いかは想像に難くないでしょう。例えば、直接的な支援はできなくても、間接的な支援はできるかもしれません(有給の推奨、業務の調整、対人支援のサポート提供など)。あるデータでは、部下のエンゲージメントを最も下げる関わりが上司の部下に対する無関心であると言われています(※)。無関心な上司の下で働く部下は、エンゲージメントが下がるだけでなく、最終的には裏でネガティブキャンペーンを実施し、会社に損害が発生するリスクも生まれるので、注意しましょう。
※一方で、最もエンゲージメントが高まる関わりが強みへのフォーカスと言われています。強みにフォーカスするにはまずは相手に関心を持ち、部下の価値観や強みを把握する必要があります。「無関心+権威性+指示」だけでは人は表面的にしか行動できません。
誘導しない
自分の思う方向に部下をコントロールしようとするのではなく、相手の望む人生を応援するというスタンスを持つことが重要です。もちろん会社なので全て部下の自由にやらせることはできません。ですが、会社の目標と部下の目標をすり合わせ、その範囲内で自己決定できる環境をできる限り構築し、部下の自立性を育むことが長期的に見て重要な関わり方となるでしょう。部下の成長段階を見極めることも重要です。例えば、ある程度、経験とリソースを持っており、自発性を促すことで成果を出せる部下か、知識やリソース共に不足しているので、ティーチングやメンタリングなど教育が必要なフェーズなのかを見極める必要があります。関わり方は部下に応じてテーラーメイドが要求されます。しかし、どんな部下にも共通して言える関わりは、最後は部下自身が決めるといった自己決定のプロセスを踏むことが肝要です。自己決定を促すことで内発的なモチベーションが高まり、部下の自主性を育み、長期的な成長を支援できる可能性が高まるからです。
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自己決定理論:内発的モチベーションを高め、ウェルビーイングを実現するためのガイド
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集中力は45分~50分
1 on 1を実施する場合、長くても1時間以内で抑えましょう。一般的に人間の集中力は45分〜50分と言われており、その際には上司と部下が協力して時間管理を意識しましょう。長すぎる1 on 1は本題からズレることがあり、ただの世間話で終わってしまうリスクが高まります。時間をしっかりと決め、テーマを設定し、どんなことをクリアにしたいか、その上で次回の1 on 1までどんな行動をするかといった建設的な時間の使い方が求められます。進め方については以下、参考ブログのGROWモデルをご覧ください。ただ、心理的負担を抱えている部下には構成的なGROWモデルだと心が追いつかないこともあり得ます。その際には非構成的な関わりで特にゴールを決めず、心のオモリを降ろしてもらうよう傾聴の比重を多めにすることでも十分効果はあるでしょう。しかし、大部分傾聴に徹する場合、上司の体力消耗が激しいので、時間はしっかりと管理しましょう。集中して人の話を聴くという行為は、かなりのエネルギーを消耗します。
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GROWモデルで自己実現:個人とチームの目標を効果的に達成する最強のツール
この記事は約29分28秒で読むことができます。 目次 / Contents GROWモデルで自己実現:個人とチームの目標を効果的に達成する最強のツールGROWモデルとは?Goal(目標)Reality …
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上司自身が傾聴してもらいたいと思われる人間へと成長する(理想に向けて行動し続ける)
これは職場でよく起こりがちですが、そもそも上司が話を聴いてもらいたいと思われる人間へ成長することなしには何も始まりません。例えば、企業ではマネジメントへの昇進に人間性が反映されないケースが多々あります。特に評価制度の項目でリーダーシップの資質(推進力、人を育てる力など)の部分が曖昧で、成果のみが主なベースで人事が決まる組織だと上司は自身の人間的成長に目がいかないことが多くなるでしょう。プレイヤーとしては一流だけれども、マネジメントになって悩むケースが発生するのはこのタイプの組織や人に多い印象です。人は誰もが成長したいという基本的な欲求を持っています。この欲求を尊重し、部下の可能性を信じ、支配するのではなく関心を持ち、上司自身も自己実現に向けて技術、人間性の双方で成長するという意志をもつことがスタートです。その為には上司自身も傾聴してもらう時間を確保することが大切になるでしょう。自分よりも上の人間との1 on 1でも良いですし、コーチングを受けるなど外部のサポートを利用しても良いです。いずれにしても上司自身が自らと向き合い、自己認識を深め、成長する前提がなければ部下から話を聴いて欲しいとはなかなか思われないでしょう。業務として仕方なく実施する1 on 1ではなく、人として向き合う1 on 1へと移行できれば理想です。いずれにしても、1 on 1などのコミュニケーションがワークする為には、上司が自分の為、関わる人たちの為、組織の共通の利益に向けて成長し続ける必要があるのです。
自分自身のメンタルを健全に保つ
マネジメントは人と向き合うハードな仕事です。よほどの適性がない限り、一般社員の時より悩みは増えるでしょう。特に中間管理職だと上長、部下に挟まれます。また、その中で自分の価値観をどう自己表現していくかという難しい課題にも直面します。メンタルを健全に保つことは、部下と良好な関係性を維持するうえで非常に重要な要素です。上司自身もコーチやメンターをつけるなど、傾聴、質問、フィードバックを通して、精神面を健全に保ち、行動を継続することには大きな効果があります。同時に、対人支援の効果を体感することも重要です。傾聴などの効果を体感できるからこそ、その原体験を通して部下を支援しようと思えます。日本では対人支援(コーチングやカウンセリング)に対して消極的なイメージがありますがアメリカではより一般的です。元GoogleCEOのエリック・シュミットがコーチをつけていたり、Microsoft創業者のビルゲイツがコーチをつけることを推奨していたり、Apple創業者のスティーブ・ジョブズもコーチに頼っていたことを考えると、マネジメントや経営者こそコーチをつけることが望ましいと私は思います。またコーチングを通したメンタルのケアや行動の促進だけでなく、食事の管理や、適度な運動が健全な心身の状態を保つうえで非常に重要です。
ビル・ゲイツやエリック・シュミットの動画はこちら
マネジメントがコーチをつける重要性についての書籍はこちら
境界線を超えない
最終的に部下が心を開くかどうか、行動するかどうかを決めるのは部下自身です。上司は自分のできること、変えられることに集中しましょう。自らの人間性と技術を磨き、部下に関心を持ち、成長を信じ、行動を促すことはできますが、最終的に動くかどうかを決めるのは部下自身です。結果、部下が変わらないのであれば自分が責任を感じすぎないことも重要な視点です。自分が変わり、組織が変わったとしても、全員が変わることは難しいといった現実に直面することもあるでしょう。その際は、客観的にその部下を評価し、組織に対しても自分に対しても”成長した点”に目を当て、改善点があれば目を逸らさず向き合い次回に活かすといったメンタリティを育みましょう。これはコーチングを通して経営者やマネジメントの方々と向き合いながら感じることですが”完璧主義を手放す”ことも、持続可能な成長には欠かせない視点です。部下の”変わらない”という決断を尊重し、その結果に基づいて客観的に評価しましょう。強制することも、怒ることも、叱ることも不要です。もちろん、自分の心の中で”残念だ”という不快な気持ちに直面することはあるでしょう。ですが、それ以上その気持ちに飲み込まれないよう感情を管理しましょう。最終的に仕事にどう向き合うかは部下の課題であり、上司の課題ではありません。変わらないと決断した部下は、それに伴う結果にも責任を負う必要があります。それも、部下を尊重するという大切な姿勢の一つだと私は思います。
まとめ
今回のブログでは傾聴という技術をベースに、部下との関わり方について記事にしてきました。経営者、マネジメントの方々は日々、人との関わりの中で多くの苦悩を経験していることでしょう。しかし一方で、多くの学びと喜びを得られているはずです。私も自身の経営、マネジメント経験、またコーチとして経営者やマネジメントの方々と向き合うことで日々多くを学ばせてもらっていますが、基本的に対人支援という文脈で求められる姿勢には以下のような共通点があると感じています。
- 上司自身が、自らの理想に向けて人間的にも技術的にも成長すること
- 上司自身が、自己認識を深め、価値観や強み、弱みを言語化し、自分自身を受容すること
- 上司自身が、自らを受容し、その結果、他者に関心を持ち、受容し、対等な関係で耳を傾けられること
- 上司自身が、自分の軸を持ち、他者に過度に迎合せず、健康的な関係性の中で健全に自己主張をすること
- 上司自身が、自らの課題と相手の課題を見極め、境界線を超えず、相手を尊重すること
私もいちコーチとして、これらの原則を胸に刻み、日々邁進していきます。
本日のブログを通して、マネジメントにおける対人関係に悩まれている方の少しでもお役に立てればとても嬉しいです。皆様の成長を心から願っております。
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