コーチング 哲学 / 思想

「実存は本質に先立つ」とは?ジャン=ポール・サルトルの実存主義をわかりやすく解説

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実存は本質に先立つ

はじめに|サルトルの有名な言葉「実存は本質に先立つ」

「実存は本質に先立つ(L’existence précède l’essence)」は、フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトル(1905–1980)の代表的な命題です。実存主義のキーフレーズとして知られていますが、抽象的な表現のため、意味がつかみにくいと感じる人も多いのではないでしょうか?

この記事では、この言葉が何を意味し、私たちの生き方にどのような示唆を与えてくれるのかを、具体例を交えながらわかりやすく解説します。


1. 「実存」と「本質」の意味とは?

この命題を理解するには、まず「実存」と「本質」という2つのキーワードを押さえる必要があります。

  • 実存(existence)
    =「そこに現に存在していること」
    たとえば、人間がこの世に生まれてきたという“事実”そのもの。
  • 本質(essence)
    =「そのものが本来持っているべき性質や目的」
    たとえば、ハサミの本質は「ものを切ること」。作られる前から“切るための道具”として定義されています。

2. 「本質が先」である──道具の世界

私たちは「本質が先にあり、あとからそれが実現される」と考えます。

たとえば、椅子を作る場合──
まず「座るための道具」という本質があり、それに基づいて材料を集めて実際の存在(椅子)を作ります。

この順序は、道具や製品など、人が設計・目的を持って作るものには当てはまります。


3. 人間は道具ではない──だから「実存が先」になる

サルトル的な実存主義ではここで問いかけます。

人間もまた、「何かの目的のために」作られた存在なのだろうか?

もし神が存在し、人間を「ある目的」のために創ったとすれば、本質は先にあることになります。しかし、サルトルは神はいない(無神論)という立場に立ちます。

よって、このように解釈されます:

人間には、先天的な意味も目的も存在しない。
まず「生まれて存在する(=実存)」のであり、
その後に「どんな人間になるか(=本質)」は自分自身の選択と行動によって決まるのだ。


4. 自由であるということは、責任を引き受けること

「実存が本質に先立つ」という考えは、人間の自由を強調します。

  • 親にこう言われたから
  • 社会がこう期待するから
  • 運命が決まっているから

こうした他者や環境に「自分の意味」を委ねるのではなく、自分の人生の意味は、自分でつくっていくという立場です。

そして同時に、この自由は責任を伴います。

誰かに与えられた本質ではなく、自分の生き方に自ら意味を与えていく。それがサルトルが語る「人間らしさ」であり、「実存の倫理」なのです。

また一方で、サルトルはこうした自由がもたらす感情を「不安(angoisse)」と呼びました。

なぜなら、自分の選択が自分の人生だけでなく、他者の人生や人間像にすら影響を与えるということに気づいたとき、人はその重さに震えるからです。

この不安は、人が「自分しか答えを持たない存在」であることに直面したときに生まれるものです。

しかし、それこそが人間の尊厳であり、他人のせいにせず、自らの生を引き受ける強さにつながります。


5. 現代へのメッセージ:意味を外に求める時代だからこそ

現代はSNS、学校、職場、家族など、さまざまな場所で「こうあるべき」「これが成功」という“本質”が押しつけられることが多い時代です。

そんな中で、サルトルであればこう問いかけるでしょう。

「その意味は本当にあなた自身が選んだものですか?」

「実存は本質に先立つ」という命題は、「まず“自分がここにいる”という事実を受け入れ、そこから意味を選び直せる自由がある」という、生き方の哲学なのです。


まとめ|実存主義が教えてくれる人生の可能性

  • 「実存が本質に先立つ」とは、人間は意味や目的を与えられる存在ではなく、自ら意味をつくり出す存在であるということ。
  • これは同時に、私たちは自由であるがゆえに、自分の生き方に責任を持たなければならないという倫理を含みます。
  • サルトルの実存主義は、「自分の人生に意味を与える力は、あなたの中にある」という力強いメッセージなのです。

コラム:なぜコーチングは実存主義的なのか?

1. 「人間は変われる」という前提:実存が本質に先立つ

  • 実存主義では「人間は生まれながらにして何者でもない。だが、自ら選び、意味を創る存在である」とされます。
  • コーチングでも「クライアントにはすでに答えがある」「過去より未来を創る」など、“与えられた本質”ではなく、“選び取り、創り上げる実存”を尊重します。

👉 サルトル的に言えば、コーチは「あなたはどう“なるか”を、自分で決めていい」と伝える存在です。


2. 自由と責任:選択の主体性を促す

  • 実存主義では、人間の自由は「逃れられない条件」であり、同時に「重い責任」として語られます。
  • コーチングでも、クライアントの意思決定や行動を「コーチが代わって行うこと」はありません。

👉 コーチは自由の行使を支えるが、その責任はクライアント自身が持つ――これは実存的倫理そのものです。


3. 他者のまなざしの超克:固定されたラベルからの解放

  • 実存主義では、他者の視線(「あの人はこういう人」というラベリング)が、自己の自由な実存を妨げるとされます(サルトル『存在と無』)。
  • コーチングは「○○な人」という診断ではなく、いま・ここからの自由な可能性に焦点を当てます

👉 だからこそ、コーチングでは「診断」よりも「問い」が中心なのです。


4. 意味の創造:実存の問いと未来志向の統合

  • 実存主義では、「人生に意味はあらかじめない。だが、人は意味を創ることができる」とされます。
  • コーチングでは、クライアントの目標や価値観に基づき「意味ある未来」を共に構築していきます。

👉 コーチは、意味を与えず、意味を共に探す伴走者。これは実存主義的な対話の姿です。


まとめ|コーチングの実存主義的要素

実存主義の概念コーチングでの対応
実存が本質に先立つ「人は変われる」「本質は自分でつくる」
自由と責任「選ぶのはクライアント」「責任も自分にある」
他者のまなざしの克服「診断しない」「ラベルづけしない」
意味の創造「意味ある目標を共に探す」

補足:クライアントが実存的危機にいるとき

  • 人生の意味が見えない
  • 自分で決めたように見えても他人に左右されていた
  • 過去の後悔や未来の不安に囚われている

こうしたテーマは、まさに実存主義が取り組んできた課題です。
そのとき、コーチが問いを通じて寄り添い、クライアントが自らの「意味」を再構築する場は、実存主義の実践そのものと言えるでしょう。


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