コーチング 心理学

セルフコンパッションとアファメーションは矛盾するのか?〜「自分に優しくする言葉」の本質を考える〜

2025年7月21日

この記事は約9分33秒で読むことができます。

セルフコンパッション

セルフコンパッションとアファメーションは矛盾するのか?

はじめに:セルフコンパッションとアファメーション、どっちが正しいの?

「私は価値ある存在」「私は必ず成功する」——そんな言葉を自分に向けて唱えるアファメーション。
一方で、「今のままの私に優しくする」というセルフコンパッション。

この2つは、似ているようでいて、実は根本のスタンスが異なります。
そして、「苦しみに抵抗すると苦悩が増幅する」とするセルフコンパッションの考え方は、アファメーションと矛盾しているのでは?という疑問も浮かびます。

本記事では、この問いに対して心理学的に整理しながら、「自分に優しくする言葉」の本質について考えていきます。


セルフコンパッションとは?|苦しみに“抵抗しない”という姿勢

セルフコンパッション(Self-Compassion)は、心理学者クリスティン・ネフが提唱した概念で、次の3つの柱から成り立っています。

構成要素内容
自分への優しさ自分を責めず、親しい友人のように接する姿勢
共通の人間性誰もが苦しみや失敗を経験するという認識
マインドフルネス感情をせず、今あるものとして受け止める

重要なのは、「今、つらい」「情けない」といったネガティブな感情を、否定せず、あるがままに認めることです。

つまり、セルフコンパッションは「自分の苦しみをどう取り扱うか?」という態度に焦点を当てているのです。


アファメーションとは?|言葉による“自己再定義”の試み

一方のアファメーション(Affirmation)は、自己肯定感を高めるテクニックとして広く知られています。
たとえば、こんな言葉を繰り返し唱えることで、潜在意識にポジティブな影響を与えるとされています:

  • 「私は魅力的な人間です」
  • 「私はすべてうまくいっている」
  • 「私は成功できる力を持っている」

目的は、「理想の自分」に近づくこと。
現実のつらさよりも、“なりたい自分像”に意識を向け、自己概念を塗り替えていく手法といえます。


両者は矛盾するのか?

ここで本題に戻りましょう。

セルフコンパッションが「今ここにある苦しみを否定しない」と言う一方で、アファメーションは「あるべき自己」を言葉で繰り返す……
これは確かに緊張関係を持っていると言えます。

セルフコンパッションが否定するのは、「苦しみを感じることが悪い」として否認したり、抑圧したりする態度です。

たとえば、

  • 「私はもう不安ではない」と言い聞かせて、不安を感じること自体を否定する
  • 「完璧な自分になる」と言い続けて、失敗を受け入れられなくなる

このようなアファメーションは、「今の自分」に対して非寛容になりやすく、かえって自己否定を強めてしまうリスクがあります。

※セルフコンパッションの書籍の中では「苦悩=苦しみ×抵抗」という公式で自己否定の問題点を理論化しています。つまり、湧き上がった苦しみの感情を否定することで、よけいに苦しみを増幅してしまうのです。


両立の鍵は「受容ベースのアファメーション」

とはいえ、すべてのアファメーションがセルフコンパッションと矛盾するわけではありません。

重要なのは、「現実を否定せずに、そこに優しさを向けているか」です。

たとえば、こんな言葉はどうでしょう?

  • 「私は今つらさを感じている。でも、この感情に寄り添ってあげたい」
  • 「完璧じゃなくても、私は価値ある存在だ」
  • 「不安な私も、愛すべき私の一部だ」

このように、「理想を押し付ける」のではなく、「今のままの自分を受け入れ、支える」言葉であれば、セルフコンパッションと矛盾せず、むしろ補完的なのです。セルフコンパッションの書籍では、以下のようなマントラ※を推奨しています。

今は苦悩の時。

生きていれば、苦悩することもある。

今、自分に優しくありますように。

自分に必要なだけ、自分を思いやれますように。

※クリスティン・ネフは、セルフコンパッションの中でマントラ(真言)の意義について、「サンスクリット語で『文字』『言葉』の意。『真言』と漢訳され、大乗仏教、特に密教では、仏に対する讃歌や祈りを象徴的に表現した短い言葉を指す」と述べています(ネフ, 2022, p.121)。

マントラを作成する際には先ほど記載した、以下の3つの要素を盛り込むことが重要とされます。

構成要素内容
自分への優しさ自分を責めず、親しい友人のように接する姿勢
共通の人間性誰もが苦しみや失敗を経験するという認識
マインドフルネス感情を評価せず、今あるものとして受け止める

セルフコンパッションはEQを高める

セルフコンパッションを実践している人は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が低いという研究結果もあります。コルチゾールが高い状態は、イライラや不安、衝動的な行動を引き起こしやすいですが、セルフコンパッションを習慣にしている人は、感情の波に呑み込まれにくくなるのです。

その結果、自分の感情を適切に認識・調整でき、合理的で建設的な行動に移しやすくなります。これは、いわゆるEQ(Emotional Intelligence:感情知能)が高まることを意味し、心理的な回復力=レジリエンスにも良い影響を与えるといえるでしょう。


まとめ:言葉で「今の自分を抱きしめる」ことがカギ

セルフコンパッションは、苦しみに「抵抗しない」ことを大切にします。
一方、アファメーションは、理想の自己像に近づくためのツールです。

この2つが対立するように見えるのは、「アファメーションが現実否認になってしまうとき」です。
ですが、本来の目的が「自己理解」や「自己受容」であるならば、セルフコンパッションと調和的に使うことができます。

最後に、こんな一言を贈ります:

「どんな自分であっても、そのまま優しくしていい」

アファメーションは、こうした「自己受容の言葉」として使ってこそ、私たちの心を本当の意味で癒してくれるのかもしれません。


あなたの内なる声に耳を傾けてみませんか?

セルフコンパッションを深めたい方には、日々のジャーナリングや「自分への手紙」がおすすめです。
理想を押しつけるのではなく、「いまここにいる自分とつながる言葉」を見つける努力をしていきましょう。


コラム:ネガティブ思考には逆効果?ポジティブアファメーションのリスク

根拠:ネガティブ思考の人にアファメーションが効きにくい理由

1. 自己概念との不一致(Cognitive Dissonance)

たとえば、強い自己否定を抱えている人が「私は価値のある人間だ」とアファメーションを唱えても、脳内では「そんなわけない」という反論(内的抵抗)が生まれやすくなるため、かえって逆効果になります。

  • 研究例
    Wood, Perunovic, & Lee (2009) の研究では、自己肯定感が低い人がポジティブなアファメーションを行うと、気分が悪化することがあると示されています。

2. 内的批判との衝突

ネガティブ思考が強い人は、内なる批判的な声(いわゆる「内的批評家」)が強力です。そのため、無理にポジティブな言葉を入れようとすると、反発的な否定の声がさらに強まりやすい


代替案:セルフコンパッションに基づくアファメーション

セルフコンパッションでは、「ポジティブであろうとする」よりも「今の自分を受け入れる」ことに焦点が当てられます。

ネガティブ思考が強い人に向いているアファメーションの例:

  • 「私は今、つらさを感じている。でも、それは人間として自然なこと」
  • 「この苦しみの中でも、自分に優しくする選択はできる」
  • 「不安な私を、少しだけ理解してあげよう」

こうした言葉は現実を否定せず、感情をそのまま抱きしめるため、ネガティブ思考の人にも受け入れやすく、心理的な安心感やレジリエンスの強化につながります。


まとめ

アファメーションの種類ネガティブ思考への効果
従来型ポジティブアファメーション(理想的な自己像の繰り返し)抵抗が生まれやすく、逆効果になることもある
セルフコンパッション型(受容ベース)抵抗が少なく、心理的な安定に寄与しやすい

参考までにマントラとアファメーションの違いを分類したのでご参考にしていただければ幸いです。

項目マントラアファメーション
目的現在の感情をそのまま受容し、心を落ち着ける(「いまここ」に留まり、感情の波に飲まれない)自己イメージを書き換え、行動や目標達成を促す(「こうありたい自分」を意識化して動機づけを高める)
内容の傾向現状肯定的・共感的なフレーズ(例:「今つらいけれど、それは自然なこと」)理想肯定的・成果志向のフレーズ(例:「私は必ず成功する」「私は価値ある存在だ」)
心理的な土台マインドフルネス、セルフコンパッション、仏教瞑想やMBSR(マインドフルネスによるストレス低減法)など自己効力感理論(Bandura)、ポジティブ心理学(Seligman)、CBTの認知再構成技法など
向いている人繊細さや自己否定が強い人、ストレス・不安傾向の高い人→ 感情受容から安全に心を整えたい場合比較的安定した自己肯定感を持ち、具体的な目標達成に意欲的な人→ 理想像を明確にして行動変容を図りたい場合
両者の組み合わせ例受容ベースのアファメーション(例:「私は今困難の中にいる。それでも少しずつ進んでいる」)→ セルフコンパッションと両立可能

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