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内集団・外集団同質性バイアスとは何か?
私たち人間は、日々の生活の中で数多くの集団に所属し、また同時に複数の集団から距離を置いて暮らしています。家族や友人、職場の部署や学校のクラス、趣味のサークルなど、考えてみると「私たちのグループ」と呼べるものは意外に多いですよね。心理学には、こうした自分の所属する「内集団(ingroup)」と、自分の所属しない「外集団(outgroup)」を比較した時に生じるさまざまなバイアスが研究されてきました。その中でも代表的なものの一つが「内集団・外集団同質性バイアス(ingroup-outgroup homogeneity bias)」です。
このバイアスは一言で言えば、「内集団メンバーは個性豊かで多様性が高いと思いがちだが、外集団メンバーは似通っていて、みんな同じような人々だと思い込む傾向」ということです。たとえば、同じ部署のメンバーについては、「Aさんは慎重派で、Bさんはリーダータイプ、Cさんは創造性豊か」と違いを細かく認識する一方で、他部署のことは「なんだかみんな融通がきかないよね」とか「あそこの人たちはみんな余裕がなさそうだ」など、大まかなイメージでひとくくりにしてしまうといった形で現れます。
本記事では、まずこの内集団・外集団同質性バイアスの概要や背景を押さえた上で、具体的な例や実験的研究、そして日常生活や社会における影響と対策などを総合的に見ていきたいと思います。
内集団・外集団同質性バイアスの背景
内集団・外集団同質性バイアスを理解するためには、社会心理学の重要な理論である社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)や、自己カテゴリー化理論(Self-Categorization Theory)などが参考になります。これらの理論によれば、人は自分が所属する集団からアイデンティティを得ると同時に、外集団との比較を通じて自尊感情や自己評価を高める動機を持つとされます。その結果、「私たちの集団は優れている・多様だ」という認知が強まり、逆に「他者(外集団)は劣っている・似通っている」という認知が形成されやすくなるわけです。
さらに、私たちは普段から内集団にいるメンバーとより深く交流する機会が多く、その人たちの個性や性格の違いなどを実際に観察しやすい環境にいます。たとえば、同じ部活の仲間であれば、練習の場面だけでなく、打ち上げや食事の場、移動中の雑談などを通して、相手の多面的な要素を知ることができます。一方で、外集団に属する人々とは、直接交流する機会が少なかったり、あっても形式的な場面だけで限られた情報しか得られなかったりします。そのため、外集団については「大まかなカテゴリー」でしか捉えられず、結果として「みんな同じようなタイプ」というステレオタイプ的思考に陥りやすいのです。
具体例で考える内集団・外集団同質性バイアス
1. 学校・職場での対立構造
学校のクラスや会社の部署、部活同士のライバル関係などは、内集団・外集団同質性バイアスが生じやすいシーンです。自分のクラスや部署のメンバーに対しては、「あの人は明るくて社交的」「こっちの人は真面目でコツコツ型」といった詳細なイメージを持つ一方、外のクラスや別の部署に対しては、「あいつらはみんな意識高い系ばっかりだ」「あの部署は全員仲が悪いらしい」など、大雑把なステレオタイプでくくってしまいがちです。
2. 地域対立や都道府県イメージ
都道府県や国などの大きな括りになると、さらに顕著かもしれません。たとえば「都会の人って皆冷たいんでしょ」とか「田舎の人ってみんなのんびりしてるんでしょ」といったフレーズは、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。都会・田舎といってもそれぞれ多様な人がいるはずですが、大きく括られた外集団のイメージとして一様化されてしまうのです。
3. 政治的・社会的グループ
政治や宗教の対立、あるいは特定の思想や信条によるグループ分けが行われるシーンでも、内集団・外集団同質性バイアスが起こりやすいです。自分の支持する政党やイデオロギーを持つ人々の多様性には気づくものの、反対派や無党派の人たちに対しては「彼らはみんな同じ考え」「みんな偏った価値観を持っている」などと見なしてしまう傾向が強まります。特にSNSの普及により、異なるグループ間で接点が少なくなると、対立や分断が深まる要因にもなり得ます。
心理学研究で見られる内集団・外集団同質性バイアス
1. タジフェルの最小集団パラダイム
社会心理学者のヘンリー・タジフェル(Henri Tajfel)は、有名な「最小集団パラダイム(minimal group paradigm)」の実験によって、集団間に実質的な利害関係や明確な対立がなくても、「自分が属する集団」vs「自分が属さない集団」というだけで、さまざまなバイアスが発生することを示しました。たとえば、被験者を「絵画の好み」など、取るに足りない基準でAグループ・Bグループに分けても、被験者は自分が属する集団に対して有利になるような報酬分配を行い、外集団に対しては不利になるように行動するという結果が出ています。この実験は、内集団・外集団が明確化した瞬間に、無意識に生じる「自分たちを良く評価し、彼らを一様化して低く見る」認知プロセスの存在を裏付けるものでした。
2. 外集団の多様性を見落とす傾向
もう少し直接的に外集団同質性バイアスを検証した研究もあります。被験者に、いくつかの集団のメンバーに関する評価や印象を尋ねると、被験者が属さない集団については「メンバー同士が似通っている」とみなし、自分が属する集団については「多様性がある」と回答しやすいという結果が多く報告されています。これは、タジフェルらの実験と同様に、比較的短期間かつ些細なカテゴリー分けであっても起こり得るという点が興味深いところです。
3. 外集団の顔識別のしにくさ
内集団・外集団同質性バイアスに関連する現象として、「他人種効果(other-race effect)」 と呼ばれるものがあります。これは、たとえば自分とは異なる人種や民族の顔を覚えにくい、あるいは見分けにくいという効果です。同じ人種の顔は見慣れていて細かい違いにも気づきやすいが、違う人種の顔は大雑把に「同じような顔」に見えてしまうというものです。この現象も、外集団の個人差を捉えにくいという点で、外集団同質性バイアスと密接に関連しています。
なぜ内集団・外集団同質性バイアスが問題になるのか
内集団・外集団同質性バイアス自体は、人間が認知を効率化するためのひとつのメカニズムでもあります。私たちは、限られた情報と時間の中で世界を理解しようとするため、大雑把なカテゴリーを用いるのはある程度仕方のないことです。しかし、これが行き過ぎると、以下のような問題を引き起こすリスクがあります。
- ステレオタイプの形成・維持
外集団について大まかな認知しか持たず「みんな同じ」というイメージで固定化してしまうと、誤ったステレオタイプが生まれ、それが差別や偏見につながる可能性があります。「○○人はみんな〜」などという差別的発言は典型例でしょう。 - コミュニケーションギャップの拡大
外集団をひとくくりに捉えることは、相手の個性や背景、意見の多様性を尊重しない態度につながりやすくなります。結果として、相手側も心を開きにくくなり、さらに対立や誤解を深める負の連鎖が起きるかもしれません。 - 自集団の問題を直視しにくい
内集団については多様だと信じるあまり、グループ内で起こっている問題を「例外的」な出来事とみなし、軽視する可能性もあります。内集団に都合の悪い事実を直視できないと、組織内の課題解決が遅れることになります。 - 社会的分断の助長
政治、社会、文化などさまざまな対立構造が生じる際、外集団を一様化して見下す・敵視することは、分断を深め、対立の解消を困難にします。複雑な社会問題ほど、さまざまな事情や個人差を理解する必要があるにもかかわらず、バイアスによって議論が平行線になる可能性があります。
内集団・外集団同質性バイアスを和らげるには?
では、私たちはどのようにして内集団・外集団同質性バイアスを和らげ、より公正で柔軟な視点を持つことができるでしょうか。いくつかの心理学的視点からのヒントを挙げてみます。
1. 個人として関わる機会を増やす
外集団を抽象的なイメージで捉えるのではなく、個々人として接触する機会を作ることが重要です。接触仮説(Contact Hypothesis)の研究によれば、集団間の対立や偏見を低減するためには、平等な立場で協力的に活動できるような場や共同の目標が効果的だとされています。たとえば、異なる部署同士が共同プロジェクトに取り組むことで、相手の個性や能力を直接知る機会が生まれ、外集団に対するステレオタイプが解消されやすくなります。
2. 視点取得(Perspective-taking)を意識する
自分とは異なる立場や環境にいる人の視点を想像し、相手の感じ方や考え方に思いを馳せることを、「視点取得(perspective-taking)」といいます。内集団・外集団同質性バイアスに陥っていると感じたら、「もし私があちらの部署の立場だったら?」「もし私があの地方で暮らす人々だったら?」と考えてみるのも良い方法です。実際にそのような視点取得を促すトレーニングは、対人関係スキルの向上や偏見の軽減に効果があるといわれています。
3. 自分のバイアスを自覚する
バイアスは無自覚のうちに発動しやすいため、まずは「自分はそうした傾向を持っているかもしれない」と認識することが大切です。特に、外集団に対して「みんな同じような人だ」と早とちりしていないか、ふと考えてみるだけでも大きな違いを生む可能性があります。たとえば職場やクラス内で「あそこのグループはいつも○○だよね」などの発言を耳にしたとき、そこにバイアスが含まれていないか注意してみると、思いのほか多くの場面で気づくかもしれません。
4. 多様性に触れる情報収集
私たちは情報を得る際に、どうしても自分の興味や既存の価値観を裏付けるようなメディアやSNSアカウントだけをフォローしがちです。しかし、それでは外集団に対する偏ったイメージが強化される可能性があります。意識的に多様な情報源からニュースや意見に触れること、異なる文化や価値観に触れる機会を持つことは、外集団の多様性を認識するうえで有効です。旅行や留学、国際交流などが典型的な例ですが、身近なところではSNSでもさまざまな国籍や専門分野の人をフォローしてみると良いでしょう。
5. 集団間協働の仕組みづくり
社会や組織のレベルでは、集団間の協働の場を制度として作り出すことが重要です。たとえば、企業内の部門を越境したプロジェクトや、行政の縦割りを超えた取り組み、地域コミュニティ同士の交流イベントなどが考えられます。そこで生まれる「顔の見える関係」は、外集団に対する過度なステレオタイプ化を減らし、互いを個人として評価し合うきっかけになります。
内集団・外集団同質性バイアスと向き合う意義
内集団・外集団同質性バイアスは、私たちの思考パターンに根付いた、ある意味「人間らしい」認知の癖です。しかし、そのままにしておくと、些細な誤解や争いを生み、社会的な分断を強める要因となってしまいます。それだけでなく、職場や学校などの組織内では協力やチームワークの阻害要因となり、もったいない衝突や疲弊を生むかもしれません。
逆に考えれば、このバイアスを理解し、意識的に克服する努力をすることで、人間関係や組織運営、さらには社会全体に対して、より建設的で多様性を受容する空気を醸成できる可能性があるのです。多様性が重視される現代社会においては、このようなバイアスへの対処は決して小さな話ではありません。
ビジネスシーンでも「心理的安全性(psychological safety)」が注目されており、組織のメンバーが安心して自分の意見を言えたり、失敗を共有しあったりできる文化が、高いパフォーマンスを生むといわれています。その一方で、「あそこの部署はこうだから」「あの部門の人はみんなこうだ」といった見方をしてしまうと、チームワークや協働の可能性が狭まり、価値あるアイデアや視点が見逃されてしまうかもしれません。内集団・外集団同質性バイアスを理解し、社内外とのコラボレーションを円滑化する意識を持つことは、組織的にも大きなメリットとなるでしょう。
また、国際的な視点でも、移民や難民問題、地域紛争などを考える際、相手を「よくわからない外集団」として一括りに捉えず、相手の背景や個々の事情に目を向けようとする姿勢は、対立や差別を和らげる第一歩です。グローバル化が進む中、異文化理解や多文化共生の必要性が高まっている現代において、内集団・外集団同質性バイアスへの認知は欠かせない課題とも言えます。
まとめ
内集団・外集団同質性バイアス(ingroup-outgroup homogeneity bias)とは、自分が所属する内集団に対しては多様性を見出しやすく、他方、自分が所属しない外集団は一様で似通っていると認知してしまう傾向を指します。これは、社会心理学の基礎研究である最小集団パラダイムの実験などからも裏付けられた、人間にとってある種自然な認知バイアスです。
しかし、このバイアスが強まると、外集団への偏見や誤解、対立が助長され、組織や社会全体におけるコミュニケーションや協力関係が阻害されるリスクが生じます。偏見や差別の原因の一端となるだけでなく、ビジネスにおけるチャンスやイノベーションを失うことにもつながりかねません。
バイアス自体を完全に無くすことは難しいですが、個人レベルでは「外集団の個々の人々と接触し、個性を認識する機会を持つ」「視点取得を意識する」「多様な情報に触れる」などの工夫が考えられます。組織や社会レベルでは、「部門間や地域間の共同プロジェクトを立ち上げる」「越境的なチーム編成を行う」といった施策によって、内集団・外集団の線を跨いだ協働の場を増やすことが効果的です。
私たちは日々、知らず知らずのうちに「私たち」と「彼ら」を区別するような言動をしているかもしれません。そうした言動の背後にあるバイアスを意識するだけでも、相手への関わり方や、さらには自分自身が属するグループのあり方をもう少し多面的に考えるきっかけになるでしょう。多様性が尊重される社会を目指すうえで、内集団・外集団同質性バイアスに対する理解と対策は、私たちにとって不可欠なテーマだといえます。
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