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アファメーションは本当に効くのか?
はじめに:ポジティブ思考の落とし穴
「私はできる」「私は価値ある存在だ」
そんな言葉を自分に向けて繰り返すことで、自己肯定感を高めたり、目標達成へと導こうとする手法——それが「アファメーション」です。
ビジネスや教育、自己啓発の分野で広く知られ、実際に心の状態を整えたり、意識をポジティブに向けるために役立つこともあります。
しかし一方で、ネガティブ思考が強い人や、自己否定の感情を抱えている人にとっては、逆効果となるケースもあるという点は、十分に考慮が必要です。
本記事では、アファメーションの利点と注意点を整理しながら、現代心理学が提案する受容的アプローチ「セルフコンパッション」との違いや補完関係について解説します。
アファメーションの効果とは?|意識と行動を整えるツール
アファメーションとは、ポジティブな言葉を意図的に使って、思考や行動を望ましい方向へと導く心理的なアプローチです。
よく用いられるアファメーションの特徴には、次のようなものがあります。
- 肯定的な文(ネガティブ表現を避ける)
- 現在形で記述する(未来ではなく、すでに実現している形)
- 感情を込めて繰り返す(単なる文言でなく「感じること」が鍵)
これらは、脳の注意機能や潜在意識の働きを活用し、意識のフォーカスを変えることを目的としています。
実際、モチベーションの向上や目標達成の加速につながることもあり、一定の成功事例も数多く報告されています。
それでも効かない人がいるのはなぜか?
一方で、こんな声もあります。
- 「ポジティブな言葉を唱えても、内側で否定の声が強くなる」
- 「アファメーションをすればするほど、虚しさや違和感が増す」
- 「『できる』と言い聞かせるたびに、自分を偽っているような気がする」
こうした反応は、自己概念とのギャップが関係しており、心理学では「認知的不協和」という現象で説明されます。
◾️ 認知的不協和が引き起こす逆効果
自己否定感が強い状態で「私は価値ある人間だ」とポジティブな側面だけを強調して唱えると、その言葉と現実の自分との間に大きなズレが生じ、脳は不快な違和感を感じます。
この不協和を解消しようとして、「やっぱり私はダメなんだ」といったさらに強い自己否定の思考が生まれてしまうこともあります。
◾️ 研究による裏づけ
Woodら(2009)の研究では、自己肯定感が低い人がポジティブなアファメーションを行うと、気分がむしろ悪化することが示されました。
このように、アファメーションは万能ではなく、使う人の心理状態やタイミングによっては逆効果となるリスクがあるということです。
ポジティブの押し付けがもたらす「心の二次被害」
近年では「Toxic Positivity(有害な前向き主義)」という言葉も注目されています。
- 「ネガティブにならなければうまくいく」
- 「つらくても前向きでいなければならない」
こうした“ポジティブの押し付け”は、ネガティブな感情を感じること自体を「悪」としてしまい、感情の自然な処理を妨げることになります。
アファメーションがうまくいかないことを「自分の弱さ」のせいにして、さらに自己否定を強めてしまうという“二次的な心理的被害”も少なくありません。
セルフコンパッション:受容から始める自己との向き合い
このようなアファメーションの落とし穴に対して、近年注目されているのが「セルフコンパッション(Self-Compassion)」です。
セルフコンパッションは、心理学者クリスティン・ネフが提唱した概念で、以下の3つの要素から構成されます。
要素 | 内容 |
---|---|
自分への優しさ | 自分に対して批判的ではなく、思いやりを持つ |
共通の人間性 | 誰しも苦しみや失敗を経験するという理解 |
マインドフルネス | 感情や現実をそのまま受け止める姿勢 |
◾️ セルフコンパッションの言葉は「自分に優しく寄り添う」
セルフコンパッションの特徴は、「理想の自分」ではなく「今ここにいる不完全な自分」に対して優しさを向ける点にあります。
たとえば、次のような言葉が使われます:
- 「今つらい。でも、それは自然なこと」
- 「完璧じゃなくても、私は十分価値がある」
- 「この苦しみに寄り添ってあげたい」
これらは、現実を否定するのではなく、共にいるという姿勢を育てるものです。
なぜセルフコンパッションは安全で効果的なのか?
セルフコンパッションは、「自分の内面との対話を拒まず、苦しみをも含めた自己理解を深める」という土台があります。
特に、ネガティブ思考が強い人にとっては、“変わること”よりも“そのままの自分を受け入れること”が先なのです。
実証研究では、セルフコンパッションは次のような効果を持つことが確認されています:
- コルチゾール(ストレスホルモン)の低下
- 感情調整能力(EQ)の向上
- レジリエンス(心理的回復力)の強化
- 自己批判の減少とモチベーションの向上
アファメーションとセルフコンパッションは対立しない
アファメーションにリスクがあるとはいえ、それ自体を否定する必要はありません。
問題は、使うタイミングと内容、そして土台にある心理的安全性です。
たとえば、次のような「受容ベースのアファメーション」は、セルフコンパッションと矛盾しません。
- 「私は今困難の中にいる。それでも少しずつ進んでいる」
- 「不完全なままでも大切な存在だと感じていい」
このような言葉は、「ポジティブに変える」ことよりも、「そのままの自分と手を取り合う」ことに焦点を当てています。
まとめ:無理にポジティブにならなくていい
アファメーションは、目的とタイミングを間違えなければ有効なツールです。
しかし、心理的な準備が整っていない状態で無理に使えば、逆に自己否定や不安を強めることもあります。
まずは、今の自分にそのまま優しくする——
その一歩として、セルフコンパッションという道を選ぶことが、最も穏やかで力強い自己変容への入り口になるかもしれません。
まずは、変わる前に、自分と手を取り合うことから始めましょう。
あなたにできること
- ポジティブな言葉より前に、自分の感情をそのまま受け止める時間を取ってみましょう。
- 自分への手紙を書いたり、セルフコンパッションのマントラ※を日常に取り入れてみましょう。
- 変化は「今ここにいる自分」との信頼関係から始まります。
※ サンスクリット語で「心(man)を守る(tra)」という意味を持つ言葉で、繰り返し唱えることで心を整えたり、集中や癒しを促す短いフレーズ
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