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1. はじめに:「がんばってるのに苦しい」のはなぜ?
「もっと結果を出さなきゃ」「こんな自分じゃダメだ」と、いつも自分にムチを打ちながら努力しているのに、どこか苦しくて報われない。
そんな感覚を抱えていませんか?
その背景には、「自分の価値は○○ができるかどうかにかかっている」という思い込み、つまり「自己価値の随伴性」が潜んでいる可能性があります。
2. 自己価値の随伴性とは何か?
自己価値の随伴性(contingent self-worth)とは、「自分の価値が、ある条件や成果に依存している」という心理状態です。
たとえば:
- 「成績が良くなければ自分には価値がない」
- 「人に認められない私はダメだ」
- 「きちんと役に立たなければ、自分はここにいてはいけない」
このように、自分の価値が特定の条件によって決まると考えると、失敗や挫折は「価値の喪失」に直結してしまいます。
3. 随伴的自己価値がもたらす心理的な代償
心理学者ジェニファー・クロッカーらの研究によれば、自己価値の随伴性が高い人は、以下のような傾向を示しやすいことが分かっています。
- 成果が出ても満たされない(すぐに次の不安に駆られる)
- 失敗に極度に落ち込みやすい
- 他者との比較で自己肯定感が乱高下する
- 自己批判が強く、抑うつや不安を引き起こしやすい
「がんばれば認められる」どころか、「がんばらないと認められない」という強迫感がつきまとうのです。
4. セルフコンパッションとは?
こうした随伴的な自己価値をやわらげる概念として注目されているのが、セルフコンパッション(Self-Compassion)です。
アメリカの心理学者クリスティン・ネフは、セルフコンパッションを以下の3要素で定義しています:
- マインドフルネス:感情や苦しみに気づき、否定せずに受け入れる
- 共通の人間性:誰もが失敗し、苦しむ存在であることを理解する
- 自分への優しさ:自分に対して、あたたかく思いやりある態度をとる
これは単なる「自分に甘い考え方」ではなく、心理的レジリエンス(回復力)を育む科学的に裏づけられた方法です。
5. セルフコンパッションは自己価値を無条件にする
セルフコンパッションを実践することで、次のような心の変化が起こります。
- 「成果が出なくても、自分の価値は失われない」
- 「失敗したとしても、私は人間として尊重されるべき存在だ」
- 「このつらさに寄り添いながら、自分の味方でいよう」
このように、セルフコンパッションは「○○だから価値がある」という条件付きの自己肯定感を、「ただ存在するだけで価値がある」という無条件の自己受容へと変えてくれるのです。
6. 日常でできるセルフコンパッション実践法
※3つの要素に沿ったステップ
① マインドフルネス:今の自分の感情や状態に気づく
- 「今、自分は失敗を恐れているな」「評価されないことに傷ついているな」と、自分の内面を客観的に観察してみましょう。
- 感情を否定せず、ジャッジせず、「そう感じているんだな」とやさしく認めることから始めます。
② 共通の人間性:この苦しみは自分だけのものではないと理解する
- 「こんな自分はダメだ」と感じたときこそ、「誰でも失敗したり、認められなかったりすることはある」と思い出してください。
- 自分の苦しみを「人間らしさの一部」と捉えることで、孤独感から解放される助けになります。
③ 自分への優しさ:自分にも思いやりのある言葉をかける
- 失敗したときやうまくいかないとき、「ダメだ」と責める代わりに、「今はつらいね」「でもそんなときもある」と自分をいたわる言葉をかけてみましょう。
- 親しい友人にかけるようなあたたかい言葉を、自分自身にも贈ることで、自己価値は条件から解放されていきます。
7. おわりに:価値は「ある」もの、勝ち取るものではない
私たちはつい、「もっと成果を出せば認められる」「人に好かれなければ価値がない」と信じがちです。
しかし、自己価値は本来、何かによって得られるものではなく、最初から私たち一人ひとりに宿っているものです。
セルフコンパッションは、その本質的な価値を思い出させてくれる心理的スキルです。
成果も、失敗も、評価も、自分を否定する根拠にはなりません。
「条件付きの価値」から自由になり、「今ここにいる私」に優しくなれたとき、心は静かに安定しはじめます。
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コラム:実存主義から見る「自己価値の随伴性」——サルトルのまなざし
私たちはつい、「成果が出たときだけ自分に価値がある」「他人に認められている間だけ、自分は存在していていい」と思い込んでしまうことがあります。このような「自己価値の随伴性」は、サルトル的な実存主義の視点から見ると、人間の本質的自由に対する重大な誤解だといえるかもしれません。
「実存は本質に先立つ」──人間の価値は自らつくるもの
サルトルは、「人間はまず存在し、そのあとに意味や価値を自ら選び取る存在である」と述べました。
これは、「○○できたら価値がある」「評価されたら意味がある」というような、外側から与えられた本質に従う生き方を否定するものです。
私たちは、本来、「何かができるかどうか」とは無関係に、すでに存在していて、価値を自ら創造できる自由な存在です。
他者の視線によって「もの」になる危うさ
『存在と無』においてサルトルは、他人の視線によって「私は対象化され、固定された存在にされてしまう」と論じました。
成果や他人の評価に価値を見出すというのは、「他者の視線」によって自分の存在が規定されることを許す態度です。
それは、「私は私のままで価値がある」という自由な自己のあり方を手放し、他者に支配された“モノ”のような生き方を受け入れてしまうことでもあります。
「自己欺瞞」としての随伴性
サルトルは、人が自らの自由を見ないふりをし、環境や立場、評価のせいにして自分を限定することを「自己欺瞞(mauvaise foi)」と呼びました。
「○○ができない自分はダメだ」と信じ込むことは、実は「そう思うことで、自分が自由に選び直す責任から逃れている」のかもしれません。
自己価値の随伴性とは、自由な存在であることの重みを避けるために、自分で自分を“条件付きの存在”に閉じ込めてしまう心理的構造でもあるのです。
自由だからこそ、自己価値も自分で選べる
サルトルなら、こう言うかもしれません。
「価値は与えられるものではなく、選び取るものである」
「君が“自分には価値がある”と決意した瞬間、その価値は生まれる」
実存主義の立場からは、私たちは「価値を証明する存在」ではなく、「価値を創造する存在」としてこの世界に立っています。
成果や評価に翻弄されるのではなく、今ここで、無条件に自分の存在を肯定することこそが、最も実存的で自由な生き方なのです。
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