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【心理学】アンダーマイニング効果とは?報酬がやる気を奪う理由を徹底解説

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アンダーマイニング効果

アンダーマイニング効果とは何か

アンダーマイニング効果とは、人がもともと楽しんで行っていた活動や自発的な意欲を持っていた行動に対して、外部から報酬や評価などの“外発的モチベーション”が与えられることで、かえって“内発的モチベーション”が低下してしまう現象を指します。たとえば、純粋に「描くのが好きだから」続けていた絵画が、ある日「描くとお小遣いがもらえる」という仕組みに変わったとたん、「報酬がなければ絵を描きたくない」と感じるようになってしまう——このような状況をイメージするとわかりやすいでしょう。

人間はもともと、興味・関心、好奇心、挑戦する楽しさ、自己成長など、さまざまな内発的要因によって行動を継続します。ところが、外部から報酬や評価を与えられ、“「他者」から強制された行動”と感じるようになると、「自分の意志でやっている」という感覚が薄れてしまうのです。この「自己決定感」の低下こそが、アンダーマイニング効果の根底にあるメカニズムの一つと考えられています。


研究背景と理論

デシとライアンの自己決定理論(SDT)

アンダーマイニング効果の研究を語るうえで欠かせないのが、エドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)によって提唱された自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)です。SDTは、人間の動機づけを「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」に区別し、それぞれを支える要素として以下の3つの基本的欲求を挙げています。

  1. 自律性(Autonomy)
    自分で行動を選択し、コントロールできていると感じること。
  2. 有能感(Competence)
    自分が成長し、できることが増えていると実感できること。
  3. 関係性(Relatedness)
    他者と良好な関係を築いている、安心できるつながりを感じられること。

もともと興味を持って取り組んでいるタスクに外発的報酬が与えられると、「自分がやりたいからやっていたのではなく、報酬があるからやらされているのだ」と認識が変化する可能性があります。これは「自律性」の感覚を損なう一因となり、結果として内発的モチベーションを減退させてしまいます。この現象を、多くの研究者が実験を通じて確認し、アンダーマイニング効果として報告してきました。

レパーらのクラシック研究

たとえば、1970年代にマーシャル・レパー(Mark Lepper)らによって行われた研究が有名です。子どもたちに絵を描く活動を与え、以下の3つの条件を比較しました。

  1. 事前に報酬を提示する条件
    「たくさん絵を描いたらご褒美をあげるよ」とあらかじめ約束されているグループ。
  2. サプライズ報酬条件
    あらかじめ約束はせず、たくさん絵を描いた後で「よく頑張ったね」と予期せぬ報酬をあげるグループ。
  3. 報酬なし条件
    報酬について言及せず、絵を描かせるだけのグループ。

実験の結果、最初から報酬があることを伝えられていたグループ(1)の子どもたちは、その後の自由時間においても絵を描く意欲が低下したことが確認されました。一方で、サプライズで報酬を与えられたグループ(2)は、その後も特に意欲が下がることはありませんでした。このように、「最初から外発的報酬を期待させる」ことが内発的動機づけを削いでしまう——これこそがアンダーマイニング効果の代表的な実験結果です。


日常生活での具体例

子どもへのご褒美制度

日常生活では、親が子どもに対して「テストでいい点取ったらお小遣いをあげるよ」というような場面が典型的です。はじめのうちは「勉強が嫌いだけど、ご褒美をもらえるならちょっと頑張ろう」という効果が出るかもしれません。しかし、長期的に考えると、「ご褒美がないなら勉強なんてやりたくない」という状態に陥ってしまう可能性が高まります。もともと「知識を得る楽しさ」や「達成感」がモチベーションの源泉となる勉強に対して、お金という外的な報酬が加わることで、いつの間にか「報酬を得るための作業」に変容してしまうのです。

スポーツへのインセンティブ

部活動やスポーツチームで、練習メニューをこなすたびに監督やコーチが物質的な報酬(例えばおやつや景品)を用意しているケースも見られます。短期的には「これをやれば〇〇が手に入るぞ」というモチベーションが生まれるかもしれません。しかし、長期的にはアンダーマイニング効果が生じ、報酬に頼らずには取り組めなくなる、あるいは報酬の価値が下がるとモチベーションも下がってしまう、という結果を招く恐れがあります。スポーツの本質である「楽しさ」や「向上心」を保つためにも、この点は注意が必要です。

趣味の収益化

近年では、イラストや音楽、動画配信など、自分の趣味が手軽に収益化しやすい環境が整っています。はじめは「それ自体をすることが好き」だったのに、いつしか「収益を上げるためにやらなければ」というプレッシャーに変わってしまった、といった類の経験を持つ人は少なくないでしょう。このように、「好き」を仕事にするとアンダーマイニング効果が生じやすいとも言われます。純粋に楽しんでいた活動が、収益という外的報酬に結びつくことで、次第に「自分は本当に好きでやっているのか、収益を得るためにやっているのか」という迷いが生まれ、自分を苦しめてしまう可能性があるのです。


教育現場でのアンダーマイニング効果

教育現場でこの効果がどのように現れるかは非常に興味深いテーマです。先述のとおり、子どもに対して成績に応じたご褒美を与える方式は短期的には成功するように見えますが、長期的には子どもの学習意欲や自主性を損なう恐れがあります。また、報酬ではなく評価のあり方についても注意が必要です。

テストの点数や順位による評価

多くの学校ではテストの点数や成績に基づいて生徒を評価しますが、この評価が過度に強調されると「いい点を取るためにだけ勉強をする」という風潮が生まれがちです。すると、子どもたちは「学問そのものへの興味・探究心」よりも「評価を得ること」や「いい点を取って他者に勝つこと」ばかりに意識が向いてしまい、本来の学びの喜びから離れてしまうかもしれません。これが習慣化すると、テストが終わった瞬間に勉強から解放され、学んだことを振り返ったり応用したりする機会が失われ、内発的動機づけを高めるチャンスも減ってしまいます。

「褒める」こととアンダーマイニング効果

子どもを育てるうえで「褒めること」は非常に大切ですが、過度に外発的な“結果”ばかりを褒めるやり方は逆効果になり得ます。たとえば、「高得点を取ったからえらい」「いい成績をとれたから褒める」という結果重視型のほめ方は、子どもからすれば「点数を取れないと評価してもらえない」と認識してしまう原因になります。これが結果的にプレッシャーを高め、失敗を恐れ、本来のチャレンジ精神を損なう可能性があります。一方で、「過程」を褒める、すなわち「熱心に取り組んでいたね」「工夫して問題にアプローチしたのがすごいね」というプロセスや努力を評価する姿勢を示すことで、子ども自身が「勉強の楽しさ」や「成長実感」へ意識を向けやすくなるよう導くことができます。


ビジネス現場でのアンダーマイニング効果

成果主義とモチベーション

ビジネスにおいても、成果に応じてボーナスやインセンティブを設定することは広く行われています。しかし、これもアンダーマイニング効果が生じるリスクがあります。特にクリエイティブな仕事や知的生産活動においては、「お金を稼ぐためにやっている」という感覚が強くなると、「自分が本当にやりたいのか、ただ仕事だから仕方なくやっているのか」といった迷いが生じ自律性が損なわれやすいのです。その結果、クリエイティビティを必要とする場面でのパフォーマンスが低下したり、自主的な学習やスキルアップが停滞する可能性があります。

チーム内の賞与配分と競争

チーム全体の成果が重要視される業務でも、一人ひとりの成果に応じて配分されるボーナス額が極端に異なる仕組みだと、チームメンバー間で競争が激化するかもしれません。「他のメンバーを助けるより、自分の成績を上げたほうが報酬が増える」と感じてしまえば、チームワークが崩れ、本来の協力関係や学び合い、情報共有などが滞る危険性もあります。こうした環境では、モチベーションの源が「助け合いや達成感」ではなく「自分だけの利益確保」に変容しやすく、結果的にアンダーマイニング効果が顕在化しやすくなります。

定量評価が難しい職務

「接客が得意」「コミュニケーション能力が高い」「職場の雰囲気を明るくしてくれる」など、直接的な売上や数字では図りにくい貢献をしている従業員の評価には注意が必要です。形に見えやすい成果だけを重視して報酬を与えると、「数字に表れない貢献は評価されない」という印象を与え、内発的モチベーションを下げる結果につながりかねません。その人が本来持っていた主体性や創造性も損なわれ、組織全体のパフォーマンスに悪影響が及ぶことがあります。


アンダーマイニング効果を回避・軽減するためのポイント

1. 自律性を尊重する

SDTで重視される「自律性」を高めるためには、本人が意思決定に関わったり、自分でやり方を工夫したりする余地をつくることが大切です。教育の現場であれば、学習のテーマや方法をある程度選択させる、ビジネスならタスクの進め方や目標設定に本人の意見を取り入れるなど、自分が主体であることを感じられる環境を整えましょう。

2. 有能感を育てるフィードバック

報酬や評価よりも「フィードバック」の質が重要です。努力や工夫、成長を具体的に認めてもらえると、「自分にはできる力がある」「もっと成長できる」という有能感が高まります。テストの点数や売上などの“結果”だけに注目するのではなく、プロセスでの改善点や新しく習得したスキルなどにも目を向け、建設的なフィードバックを提供することでモチベーションを持続させやすくなります。

3. 関係性を重視する

学習や仕事において、他者とのつながりやサポートを感じられることは大きなモチベーションの源になります。チーム内やクラス内での協力、助け合い、情報共有の仕組みづくりが大切です。個人の成果ばかりが重視される環境ではなく、協力し合う風土を育てることで、外発的報酬に依存しにくい、内発的に動機づけられたコミュニティが形成されます。

4. 適度なチャレンジ目標を設定する

難しすぎる目標は挫折感を生み、モチベーションを下げます。一方で、簡単すぎる目標では成長実感が得られません。自身の能力や興味関心に合った、少し背伸びすれば達成できる程度のチャレンジングな目標設定が内発的モチベーションを刺激します。その際、達成に向けた道筋を自分で考えさせたり、必要なサポートを準備したりすることも効果的です。

5. 報酬の伝え方を工夫する

どうしても金銭的な報酬などの外発的モチベーションを取り入れたい場合は、その「伝え方」や「タイミング」が重要です。先に紹介したレパーらの研究にあるように、事前に報酬を約束すると、内発的動機づけが損なわれる可能性が高いです。一方で、予期しない形での「サプライズ報酬」や、成果よりもプロセス・努力に対する感謝を込めた贈り物などは、アンダーマイニング効果を招きにくいとされています。大切なのは、「この報酬はあなたの努力に対する感謝や敬意であって、報酬のためにやるべきことを強要しているわけではない」という姿勢を明確に伝えることです。

6. 自己決定感を損なわない評価制度

ビジネスや教育において、評価制度はどうしても必要な場合があります。その場合、評価が「内発的モチベーションを削ぐものになっていないか」定期的にチェックすることが大切です。評価基準や目標設定に当事者自身が参加できるようにしたり、定量指標だけでなく定性評価を取り入れたりするなど、本人の納得感や主体性を大切にする方法を考えましょう。


まとめ

アンダーマイニング効果は、一見すると逆説的な現象とも言えます。外発的な報酬や評価を与えれば、やる気が上がり、良い結果をもたらすように思われがちです。しかし、長期的に見れば、人間本来の「好き」「面白い」「やってみたい」という内発的な動機づけを損ない、やる気や継続力が低下してしまう可能性があるのです。

  • 自己決定理論(SDT)
    デシとライアンが提唱した「自律性」「有能感」「関係性」の3要素を満たすことで、人は高い内発的モチベーションを維持できるといわれています。
  • 事前に約束された外発的報酬は要注意
    とくに、活動を始める前に「これをやればご褒美がもらえる」と提示されると、「自分の意志でやっている」という認識が薄れ、アンダーマイニング効果が発生しやすくなります。
  • 教育・ビジネス・日常生活のあらゆる場面に生じ得る
    テストの点数や給料、ボーナスなど、成果主義や評価制度が当たり前のように導入されている場面でも、この効果の影響には注意が必要です。
  • 対策は「内発的モチベーションの維持・向上」
    報酬の与え方やフィードバックの仕方、評価制度の設計などを工夫し、本人の主体性や成長意欲を尊重することが大切です。

アンダーマイニング効果への対策は、決して「報酬を一切禁止すること」ではありません。むしろ、いかにして「人間が本来持つ好奇心や挑戦への意欲」を尊重し、それを伸ばす環境をつくるかという視点が重要です。仕事や学習の過程で、必要に応じてある程度の外発的モチベーションを利用するのは問題ありませんが、それが内発的モチベーションを損ねることのないように配慮することが求められます。

とりわけ、子どもや若者の成長をサポートする立場にある教育者や保護者、また企業のリーダーは、このアンダーマイニング効果を正しく理解しておくことが不可欠です。成果や結果だけを重視する短期的な視点に固執すると、長い目で見たときに創造性や自主性のある人材を育てにくくなってしまいます。逆に、本人の主体性を尊重し、失敗を許容し、努力を具体的に評価する文化を育てることは、組織や社会のイノベーションにつながるはずです。

アンダーマイニング効果を避けるためには、「人はなぜ行動するのか」という根本的な問いを常に意識しておく必要があります。私たちは何かを行うとき、ただ報酬を得るためだけに動いているわけではありません。「知的好奇心や達成感、他者との連帯感、自分の可能性を試す楽しさ」など、内発的動機づけの素地は本来、多くの人が持っているものです。その貴重な源泉を大切にしながら、それをさらに引き出すために、どう外発的動機づけと内発的動機づけを活用するか——この視点が、教育やビジネスの分野で今後ますます重要になっていくでしょう。

もし今、目の前の子どもや部下、あるいは自分自身のやる気が続かなくて困っているとしたら、まずは「アンダーマイニング効果が起きていないか」を疑ってみるのも一つの手です。報酬や評価に依存しすぎていないか、あるいは「自分の意志で取り組んでいる」という感覚を失っていないかを振り返り、必要に応じて環境や目標設定の見直し、フィードバックの方法を調整する。こうした小さな工夫が、モチベーションを取り戻し、またはさらに高めるきっかけになるかもしれません。

アンダーマイニング効果の理解は、私たちの学び方・働き方、そして人間関係の在り方を見直す良いきっかけとなるはずです。内発的モチベーションの大切さを改めて認識し、一人ひとりが「自分はこれが好きだからやる」「この活動に価値を感じるから努力する」といった自律的な意欲を取り戻せるような社会を目指していきたいですね。

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