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サヴィカスのキャリア構成理論とライフデザイン・カウンセリングとは?──VUCA時代を生き抜く「自己物語」再構築ガイド

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キャリア

はじめに──キャリアは「発見」ではなく「構築」する時代へ

“いい大学・いい会社・終身雇用”――かつては鉄板とされたキャリアパスが、今では神話に等しいものになりました。技術革新、AI、グローバル競争、そして寿命の延伸……。こうした要因が絡み合う VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)な時代では、職業を一度決めれば安心、という発想はもはや通用しません。必要なのは「次に何が起きるか」を待つことではなく、「変化に合わせて自分の人生を設計し直し続ける力」です。

この“キャリアの再設計”を理論的に支えるのが、アメリカのキャリア心理学者 マーク・L・サヴィカス が打ち立てた キャリア構成理論(Career Construction Theory:CCT) と、その応用である ライフデザイン・カウンセリング です。本記事では、CCT を柱に、実践モデルであるライフデザイン・カウンセリングの手法までを一気に俯瞰し、みなさんのキャリアを物語として再構築する手がかりを提供します。


理論と実践の位置づけを整理する

サヴィカスの体系は、学術的には CCT=理論の骨格ライフデザイン・カウンセリング=実践モデル の二層構造で語られます。「ライフデザイン理論」という表現も流通していますが、正式な論文では CCT が中核概念であり、ライフデザインは“応用パッケージ”と考えると整理がスムーズです。

名称役割
理論キャリア構成理論(CCT)キャリアを人がどう意味づけ・構築し、社会に適応していくかを説明
実践ライフデザイン・カウンセリングCCT を現場で使うためのナラティブ技法・面接プロセス

この二層を押さえておくと、専門書や論文を読むときに用語の揺れで混乱せずに済みます。


CCTを形づくる三つの理論的支柱

サヴィカスは CCT を、以下の三本柱で組み立てました。

  1. スーパーのキャリア発達理論
    人のキャリアは生涯にわたって発達するという「ライフスパン」視点と、仕事・家庭・地域など多面的役割を同時にこなす「ライフスペース」視点を組み合わせた枠組みです。
  2. 構成主義(Constructivism)
    「現実は外側から与えられるものではなく、私たちが意味づけることで構築される」という考え方。キャリアも“発見”ではなく“創造”の対象になる、という含意がここから導かれます。
  3. ナラティブ・アプローチ(Narrative)
    人は物語を語る存在であり、語りを通じて自己理解を深め、行動を選択します。CCT では、キャリアは「職歴の羅列」ではなく「本人が語る自己物語」として扱われます。

変容を駆動する循環モデル

Adaptivity → Adaptability → Adapting → Adaptation

サヴィカスはキャリア適応を 四つの “A” のサイクルで説明します。

  1. 適応志向性(Adaptivity)
    変化を「気に留め、準備しようとする態度」。
  2. 適応力(Adaptability)
    後述する 4C(Concern, Control, Curiosity, Confidence)という心理的資源。
  3. 適応行動(Adapting)
    転職・学習・ネットワーキングなど具体的な行動。
  4. 適応結果(Adaptation)
    キャリア満足や成果として現れる状態。

この循環をうまく回せるかどうかが、VUCA 環境での“キャリアの健全度”を左右します。


キャリア・アダプタビリティ4Cを深掘りする

キャリアを構築する心理的燃料が 4C です。硬い用語の羅列に見えますが、実は日常行動にも直結していますので、それぞれを少し噛み砕いてみましょう。

Concern(関心)

私には未来があるのか?」という問いに応え、将来を見通す力。未来年表を書いたり、キャリアビジョンを言語化したりする行為は Concern を鍛えます。

Control(統制)

その未来を握っているのは誰か?」――もちろん自分自身です。目標設定や行動計画を自分で作り、実行をモニタリングする習慣が Control を高めます。

Curiosity(好奇心)

この世界で私は何ができるか?」を探る探索心。社外コミュニティへの参加、越境学習、ジョブクラフティング(働き手自身が仕事の内容・人間関係・捉え方を主体的に再構成し、自分にとって意味のある仕事に変えていくプロセス)は Curiosity の代表例です。

Confidence(自信)

私は実行できるか?」への肯定感。成功体験の棚卸しやメンターからのフィードバックが Confidence を支えます。

4C は互いに影響し合い、相乗効果で高まり続けるのが理想です。たとえば、好奇心に突き動かされ新たな挑戦をすれば、達成体験が自信を強め、その勢いでさらに遠い未来にも関心が向き、次の行動を主体的に選べるようになる――という具合です。


ライフテーマ:人生を貫く「意味の糸」

人には、人生を通じて繰り返し浮上する ライフテーマ がある、とサヴィカスは述べます。
子どもの頃「誰かを助けること」に強い喜びを覚えた人は、大人になって医療や教育の道を選びやすい。そうした“意味の糸”こそがライフテーマであり、キャリア選択に深層で影響を及ぼします。

では、どうやってそれを探るのか?――そこで登場するのが キャリア構成面接(Career Construction Interview:CCI) です。


キャリア構成面接(CCI)の5項目

CCI は、クライアントの物語を引き出し、ライフテーマを浮かび上がらせるためのナラティブ面接法です。
正式版は、以下の五つの質問グループから成ります。特に「好きな早期記憶」は深層の信念を映すため重視されます。

  1. 賞賛した人物(ロールモデル)
  2. 好きな雑誌・TV 番組(関心領域)
  3. 好きなストーリー/キャラクター(世界観・価値観)
  4. 座右の銘(信念・行動原理)
  5. 好きな早期記憶 3 つ(ライフテーマの核心)

面接者はこれらの答えをもとに、「何がその人を動かしているのか」「どの価値観が未来の選択を導くのか」を一緒に読み解きます。


語りが変容を生むプロセス

CCI では、語る→外化→再配置→再構築→行動化というステップが、いわば“物語の書き換え”として進行します。ここでのキーワードは Narratability(語り得る力)Reflexivity(内省的対話)

似た概念に Mezirow の「視点変容(Perspective Transformation)」がありますが、CCT のフォーカスは「語りを介した自己再定義」にあります。つまり、出来事そのものを変えることは不可能でも、出来事の物語的意味は書き換えられる――それが行動選択をガラリと変える、という考え方です。


研究エビデンスと課題

  • 効果
    • 4C は職務満足や客観的キャリア成功を中程度の効果量で予測。
    • CCI介入は自己効力感と職業探索行動を有意に高めることがメタ分析で確認。
  • 文化差
    • 集団主義文化では Control や Confidence が相対的に低めに出る。ローカライズした尺度が必要。
  • 限界
    • ナラティブは自己報告依存で定量化が難しい。
    • 面接者の解釈バイアスを完全に排除できない。
    • 長期追跡研究がまだ不足。

課題はあるものの、変化適応力を高める実証的効果が示されている点は大きな強みです。


コーチングとカウンセリングにどう生かすか

ライフデザイン・カウンセリングは、クライアントが「答えは自分の中にある」と気づくプロセスを重視します。この点でライフコーチングと親和性は抜群です。

  • コーチングは具体的目標・行動計画へフォーカス。
  • ライフデザインは物語と価値観の再構築にフォーカス。

両者を組み合わせれば、行動と意味づけが相乗効果を生みます。たとえば CCI で抽出したライフテーマを、コーチングセッションのゴール設定や優先順位づけに活用すると、「やらされ感」のない行動計画が立ちやすくなります。


4C を育てる実践ワーク(例)

  1. 未来年表ワーク(Concern)
    5・10・15 年後の“理想の1日”を文章化し、時系列に並べる。
  2. 自己契約シート(Control)
    90 日ゴール+具体行動+進捗チェック欄を自分宛てに署名する。
  3. 越境学習チャレンジ(Curiosity)
    週 1 回、専門外イベントに参加・観察し、学びを記録。
  4. 成功体験リソースマップ(Confidence)
    小さな成功を年表で可視化し、支援者や強みを紐づける。

おわりに──あなたの物語は書き換えられる

サヴィカスの CCT とライフデザイン・カウンセリングは、「キャリア=職歴」という狭い枠を超え、人生全体を自分で編集し続けるための知的ツールキットを提供してくれます。

キャリアは一度決めて終わるプロジェクトではありません。Concernで未来を思い描き、Controlでハンドルを握り、Curiosityで可能性を探索し、Confidenceで舵を切る。あなたの物語の脚本家は、ほかの誰でもない あなた自身 なのです。

ライフは「選ぶ」より「つくり続ける」もの。
さあ、次の章をどう書き換えますか?


コラム:VUCAとは?

はじめに:なぜ「VUCA」が注目されているのか

現代社会は、テクノロジーの進化、グローバル化、気候変動、パンデミックなどにより、先行きが見通しづらくなっています。このような不安定な状況を説明するために使われるのが、「VUCA(ブーカ)」という言葉です。この用語は、もともとアメリカ軍が冷戦後の国際情勢を表現するために用いた概念ですが、現在ではビジネス、教育、キャリア開発、リーダーシップなど幅広い分野で使われています。


VUCAの4つの構成要素

項目英語日本語訳概要説明
VVolatility変動性(変動)変化のスピードが速く、予測が困難。例:株価の乱高下、技術の急速な進化など。
UUncertainty不確実性(不確実)未来が予測できず、意思決定の根拠が不安定。例:パンデミック後の経済回復の見通しなど。
CComplexity複雑性(複雑)多くの要素が絡み合い、原因と結果が一対一で結びつかない。例:グローバルサプライチェーンの混乱。
AAmbiguity曖昧性(曖昧)情報の解釈が複数存在し、明確な答えが見つからない。例:新興市場での消費者ニーズの曖昧さなど。

VUCA時代に求められる4つの対応力

VUCAに対抗するためには、それぞれの要素に対応した力が必要です。

VUCA要素対応スキル説明
Volatility(変動)Vision(ビジョン)不安定な状況でも揺るがない目的意識を持ち、周囲に示す力。
Uncertainty(不確実)Understanding(理解力)情報を収集・分析し、仮説を立てて動く力。
Complexity(複雑)Clarity(明確さ)難解な状況を整理し、シンプルな道筋を見出す力。
Ambiguity(曖昧)Agility(敏捷性)試行錯誤を恐れず、柔軟に対応を変えていく力。

おわりに:VUCAを“言い訳”にしないために

VUCAという言葉は、ただ不安や困難を示すための概念ではありません。それは、「これまで通りにはいかない時代に、どう主体的に動くか」を考えるためのフレームです。

ビジョンを持ち、学び続け、柔軟に適応し、曖昧な状況に対しても勇気をもって挑む。
その姿勢こそが、VUCA時代を生き抜く鍵になるのです。


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