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学習性無力感とは?原因・症状・克服法を心理学と神経科学で読み解く

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学習性無力感

学習性無力感とは?

1. はじめに:なぜ「やる気が出ない」のか?

「何をやっても無駄」「努力しても変わらない」──そんな感覚にとらわれると、私たちは新しい挑戦を避け、行動する意欲を失ってしまいます。

その背後にある心理的メカニズムが 学習性無力感(Learned Helplessness) です。

本記事では、学習性無力感の定義・成り立ちから脳内メカニズム、そして再び活力を取り戻すための実践的アプローチまでを、最新研究を踏まえてわかりやすく解説します。


2. 学習性無力感とは何か?

学習性無力感とは、「自分の行動では状況を変えられない」 と学習してしまった結果、努力や挑戦を放棄してしまう心の状態を指します。

■ セリグマンとマイヤーの犬の実験(1967)

  1. 犬をハーネスで固定し、足元に電気ショックを与える。逃げる術はない。
  2. その後、シャトルボックス(仕切りを飛び越えればショックを回避できる装置)に移す。
  3. 逃げられる条件下になっても、先に「制御不能」を学んだ犬は仕切りを飛び越えなくなる

この現象を体系化したのがマーティン・セリグマンの著書『Learned Helplessness』(1975)。「行動の結果を制御できるか否か」が、意欲や学習を大きく左右すると示されました。


3. どんな場面で起こる?(具体例)

  • 職場:提案しても却下され続ける → 自発的アイデアが減る
  • 学校:試験に繰り返し失敗 → 勉強意欲が低下
  • 家庭:努力しても評価されない → 感情表現を控える
  • 人間関係:何度説明しても理解されない → 心を閉ざす
  • 医療・介護:慢性疾患や長期介護で改善が見えない → リハビリを諦める

「報われない」体験が続くと、私たちの脳は次第に「無力」を学習してしまうのです。


4. 学習性無力感のメカニズム

4-1 認知と感情の悪循環

セリグマンらは後に、無力感を強める悲観的説明スタイルを提唱しました。

帰属の次元悲観的スタイル楽観的スタイル(対照)
原因の所在内的(全部自分が悪い)外的(状況が悪かった)
範囲普遍的(何事もダメ)特定的(今回だけ)
持続性永続的(今後も変わらない)一時的(次はうまくいく)

こうした思考は「挑戦 ➜ 失敗 ➜ さらに挑戦回避」というループを生みます。
CBTで使われるABCモデル(出来事 Activating Event → 信念 Belief → 結果 Consequence)で整理し、信念を書き換えることが改善の第一歩です。ABCモデルは、合理情動行動療法(REBT)のアルバート・エリスが提唱し、現在ではCBTを含む多くの認知行動療法で広く活用されています。

4-2 神経科学的メカニズム

脳部位 / 経路主な役割制御不能ストレス時の変化無力感につながる結果
腹内側前頭前皮質(vmPFC)状況のコントロール判定・トップダウン制御活動低下→DRNを抑制できなくなる「どうせ無理」と行動抑制が固定化
背側縫線核(DRN)セロトニン放出による行動抑制※vmPFC抑制解除で5-HT過剰放出受動的・無気力モードに移行
扁桃体恐怖・不安の検出反応閾値が下がりHPA軸を過剰駆動慢性コルチゾール→不安・過覚醒
海馬記憶・情動コンテクストBDNF↓・神経新生↓で可塑性低下環境を変える発想・学習が弱まる
VTA–NAc 報酬経路報酬予期・やる気のドライブドーパミン発火↓努力へのモチベーション低下
4-2-A. VTA–NAc とドーパミン低下

制御不能ストレスは 腹側被蓋野(VTA)–側坐核(NAc)経路 のドーパミン発火を抑制することも報告されています(Hammack & Maier, 2015)。これにより「報酬の予期」が弱まり、努力へのドライブが低下します。

4-2-B. BDNF と神経新生の低下

慢性的ストレスは海馬の BDNF(脳由来神経栄養因子) を減少させ、神経新生を阻害します。その結果、「新しい経験や学習で環境を変えられる」という感覚が弱まり、無力感が固定化しやすくなります。

4-3. コントロール付与で回路は“巻き戻せる”

動物研究では、ストレス後でも 「逃避可能」な状況を与えると vmPFC が再び活性化し、DRN の過剰セロトニン放出を抑制、行動が回復 することが示されています(Maier & Seligman, 2016 Review)。この可逆性は、人間でいう「小さな成功体験」や「再フレーミング」が脳回路を再訓練できる仕組みを裏づけます。

※背側縫線核(DRN)からのセロトニン放出は、通常は適度な行動抑制を促しますが、制御不能なストレスが続くとセロトニンが過剰に放出されすぎてしまい、それが受動的・無気力な状態を引き起こします。これは「うつ病=セロトニン欠乏」という一般的なイメージとは異なるメカニズムであり、特に無力感に関する行動抑制に特徴的な現象です。


5. 学習性無力感の兆候と症状

  • 何をするにも「無意味だ」と感じる
  • 興味・関心の喪失、先延ばしの増加
  • 「自分には価値がない」という自己評価の低下
  • 慢性的疲労、睡眠リズムの乱れ
  • 抑うつ症状

「WHO はうつ病要因として “慢性的なストレス負荷” を挙げており、その中心に制御不能感が位置づけられる (WHO 2017, Depression and Other Common Mental Disorders)」


6. 学習性無力感からの回復・克服法

方法ポイント補足エビデンス
6-1. 小さな成功体験の積み上げ例:一日10分の散歩、机の上を5分だけ片づけるなど、SMART(具体・測定可・達成可能・現実的・期限)なミニ目標を設定自己効力感研究(バンデューラ)
6-2. リフレーミング(視点転換)ABCモデルで信念を書き換え、「失敗=学びのデータ」と再定義CBTの効果を示す多数のメタ解析研究によるエビデンスあり
6-3. セルフ・コンパッション自慈心・共通の人間性・マインドフルネスの3 要素で「できない自分」も受容Neff (2003) 以降の縦断研究
6-4. 社会的サポートの活用感情的 / 道具的 / 情報的サポートを目的別に頼るレジリエンス研究の主要因
6-5. 専門家の支援一次選択:CBT、ACT、行動活性化などエビデンスの確立されたセラピーやカウンセリング。軽度の無力感や非臨床レベルの場合には、心理学的なエビデンスに基づいたコーチングなども支援策の一つになり得ますが、抑うつ症状が強い場合は専門的な心理療法が推奨されます。NICEガイドライン等

7. 学習性無力感とレジリエンス

学習性無力感は「学習された」現象です。
つまり脳は 再学習(re-learning)神経可塑性(neuroplasticity) によって書き換え可能。

レジリエンスを構成する主な柱は──

  1. 自己効力感(バンデューラ)
  2. 希望と楽観性(ペンシルベニア大学の説明スタイル介入など)
  3. 他者とのつながり(支え合う関係性)

これらを高めることで「状況を変えられる」という実感が蘇り、vmPFCのトーンも回復しやすくなります。


8. まとめ:人は何度でも「学び直す」ことができる

学習性無力感は 「結果を変えられない」という誤った学習に過ぎません。
小さな成功を積み重ね、思考のレンズを磨き、支え合いを得ることで、私たちの脳と心は再び「行動で未来を動かせる」という回路を取り戻します。

一歩の行動が、新しい自己像と未来を形づくる。
あなたの内側には、変わる力が必ずあります。


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