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コーチは心理学を学ぶべき? – Vol.8- マズローの欲求階層論:自己実現への5段階

2024年1月29日

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マズローの欲求階層論

マズローの欲求階層論:自己実現への5段階

アブラハム・マズローが1940年代に提唱した「欲求階層論」は、人間の行動と動機付けを理解するための画期的な理論です。彼は人間の欲求を階層化し、基本的な生理的欲求から始まり、最終的には自己実現の欲求へと進化すると考えました。マズローの理論は、心理学のみならず、教育、ビジネス、健康管理など多岐にわたる分野において重要な意味を持ちます。

彼のモデルでは、低次の欲求が満たされなければ、人は高次の欲求に焦点を合わせることができないとされています。例えば、食事や安全な住居が確保されていない状況では、友情や自尊心のような高次の欲求は二次的になります。この理論は、人間がどのように動機付けられ、決定を下すかについての洞察を提供し、個人の成長と幸福を促進するための枠組みを提供します。

現代においても、この理論は個人の生活や職場での行動、社会的関係の理解に役立ちます。自己実現への道は個人差があるものの、マズローの欲求階層論は人間の基本的な欲求と成長の過程を理解するための鍵となる理論であり続けています。

自己実現的人間の定義:

以下がマズローの定義する自己実現的人間です。この定義を頭に入れることで、欲求階層論の理論を掴みやすくなります。

①病気から十分解放されていること 
②基本的欲求を十分満たしていること 
③自己の能力を積極的に用いていること 
④ある価値により動機づけられ、それを得ようと努力し、模索し、忠実につかえようとしていること


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各階層の詳細な説明:

マズローの欲求階層論は、人間の欲求を5つのレベルに分類しています。以下では、各階層に具体的な例を加えて説明します。

  1. 生理的欲求 : これは最も基本的な欲求で、生存に必要な要素が含まれます。例えば、食事、水分、睡眠、温度調節(暖かい服やエアコンなど)、性的欲求がこれに当たります。これらの欲求が満たされなければ、他のすべての欲求は二次的になります。
  2. 安全の欲求 : 安全の欲求には、身体的安全(暴力や災害からの保護)、雇用の安定、住居の安全、健康保険のような社会的セキュリティが含まれます。例としては、安定した職を求める動機や、住宅ローンの安定した返済計画などが挙げられます。
  3. 所属と愛の欲求 : 友情、愛情、所属感の欲求です。家族や友人との関係、恋愛関係、チームやコミュニティへの所属が具体例です。例えば、友人との定期的な交流や、愛する人との強い絆、クラブや組織への参加がこれに該当します。
  4. 承認の欲求 : 自尊心、自己尊重、他者からの評価や承認の欲求を含みます。キャリアでの昇進、賞賛や賞、社会的地位や名声の追求などが例です。仕事での成功やスポーツでの勝利、SNSでの「いいね!」の数などが具体的な指標となり得ます。
  5. 自己実現の欲求 : これは最も高いレベルの欲求で、自分の潜在能力を最大限に発揮することを目指します。創造的な活動、個人的な目標の達成、精神的・哲学的探求などが含まれます。芸術家が新しい作品を創り出すこと、アスリートが自己最高の記録を更新すること、あるいは深い瞑想や宗教的な体験を追求することなどが例として挙げられます。
マズローの欲求階層論
マズローの欲求階層論
注意点

4段階目の承認欲求には自らの承認と、他者からの承認の双方が含まれていることが特徴的です。

承認の欲求は「尊厳の欲求」や「自尊心の欲求」とも呼ばれています。  マズローによると、承認の欲求は自己に対する評価と他者からの評価に二分できます。前者は、強さや達成、熟達、能力への自信、独立と自由など、自己をより優れた存在と自認する、いわば自尊心とも呼べるものへの希求です。また後者には、評判や信望、地位、名誉、栄達、優越、承認、注意、重視などがあります。  承認の欲求が充足されると、自分は世の中に役立つ存在だという強い感情が湧いてくるものです。逆にこの欲求が妨害されると、焦燥感や劣等感、無力感などの感情が現れてきます。


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5段階目の自己実現の欲求は厳密にいうと「超越的でない自己実現者」と「超越的である自己実現者」の二つに分かれます。このことから実際にはマズローの欲求5段階説は6段階説であるべきという主張も存在します(そもそも欲求5段階説という言葉の出自が不明であることや、5段階説というと”5”という数字が強調され過ぎてしまうことの弊害を考慮すると、欲求階層論と呼ぶ方が個人的にはしっくりきます)。「超越的でない自己実現者」は主に欠乏欲求が支配するD(Deficiency)領域で生きていると定義され、「超越的である自己実現者」は主に自己成長が支配するB(Being)領域で生きているされています。

これらの階層は、個々人によってその重要性や具体的な内容が異なりますが、一般的には基本的な欲求から高次の欲求へと進んでいく傾向があります。マズローは、これらの欲求が満たされることで、個人はより充実した人生を送ることができると考えました。しかし、ここで理解が必要なことは、下位の欲求が100%満たされなければ次の欲求には進めないという訳ではありません

また、欲求の階層に基本的な順序はあるものの、決してそれは不動のものではないことも理解しておくべきです。たとえば、所属や愛よりも名誉を重視する人や、あるいは芸術家のように創造への意欲が他のいかなるものよりも重要である人がいるものです。 さらに、欲求階層論では、下位の欲求が100%満たされてはじめて、次の欲求が生じると主張しているわけではありません。下位の欲求がある程度満たされると一段上の欲求が頭をもたげてきます。そのため人間は五つの階層においてそれぞれある程度は欲求が満たされているというのがマズローの見立てです。  この点に関してマズローは、独断であてはめた数字を示しています。これによると、一般的な人間ではそれぞれの満足度が、生理的欲求85%、安全の欲求70%、所属と愛の欲求50%、承認の欲求40%、自己実現の欲求10%になっています。


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この引用からも分かる通り、どの程度の欲求を満たして次の段階進むのかは個人差があるということです。

現代社会における応用

マズローの欲求階層論は、現代社会においてさまざまな形で応用されています。この理論は、人間の行動、動機付け、そして個人の成長の理解に深い洞察を提供し、ビジネス、教育、心理療法、社会政策など多岐にわたる分野でその価値を発揮しています。

ビジネス界では、マズローの理論は従業員の動機付けや職場での幸福感の向上に役立てられています。組織は従業員の基本的な生理的欲求(適切な給与、安全な職場環境)と安全の欲求(雇用の安定、キャリア開発の機会)を満たすことに重点を置きます。さらに、チームビルディング活動やコミュニケーションの促進を通じて、所属と愛の欲求を満たす取り組みも行っています。承認の欲求は、従業員の業績を認識し、報酬や昇進、賞賛を通じて満たされます。最終的に、自己実現の欲求は、従業員が自分の能力を最大限に活かし、創造的で充実した仕事ができる環境を提供することで支援されます。

教育分野では、学生の全面的な成長と発達を促すために、マズローの理論が活用されています。例えば、安全で支援的な学習環境の提供、社会的スキルの育成、自尊心の構築、個々の学生の興味や才能を引き出すカリキュラムの開発などが挙げられます。

心理療法の分野では、クライアントの基本的な欲求から始め、より高次の欲求へと焦点を移していきます。治療は、クライアントが自己実現に向けて進むのをサポートすることを目的としています。このアプローチは、個人のポテンシャルの解放と精神的な健康の促進に貢献しています。

社会政策においても、マズローの理論は、市民の基本的な欲求を満たし、幸福度を高めるための方策の策定に役立てられています。健康保険、住宅政策、教育制度、社会福祉プログラムなどがこれに該当します。

マズローの欲求階層論は、人間の行動と動機付けに関する深い理解を提供し、個人や組織、社会全体の幸福と成長を促進するための貴重な枠組みであり続けています。この理論に基づくアプローチは、人々が自己実現へと進む過程を支援し、より充実した人生を送るための手助けとなっています。

コーチング分野の応用

コーチングの分野におけるマズローの欲求階層論の応用は、個人や組織のポテンシャルを最大限に引き出し、目標達成へ導くための強力なフレームワークを提供します。以下は、コーチングにおけるマズローの理論の具体的な応用例です。

  1. 生理的欲求の対応 : コーチングでは、クライアントの基本的な健康や福祉に注意を払います。疲労、ストレス、健康問題などが目標達成を妨げないよう、バランスの取れた生活習慣や自己管理の技術が重要視されます。
  2. 安全の欲求の確保 : コーチはクライアントが安全で支持されていると感じられる環境を提供します。これには、職場や家庭での安定、財務的セキュリティ、将来の計画に関する不安の軽減などが含まれます。また、コーチング特有のコーチとクライアントのラポール(信頼関係)を強化し、安心安全な場(何でも話せる)を構築することも含まれるでしょう。
  3. 所属と愛の欲求への対応 : コーチングでは、人間関係の改善、コミュニケーションスキルの強化、ネットワーキング能力の向上などを通じて、クライアントの社会的なつながりや所属感を育みます。
  4. 承認の欲求のサポート : コーチはクライアントの自尊心を高め、自己効力感を強化します。これは、成功体験の共有、ポジティブなフィードバック、目標達成に向けた進捗の認識を通じて行われます。
  5. 自己実現のサポート : コーチングの究極的な目標は、クライアントが自己実現を達成することです。これは、個人の強みや興味を探求し、キャリアや個人的な生活における具体的な目標設定、そして創造性や才能の発揮及び活用を促すことで実現されます。

コーチングにおけるこれらの応用は、クライアントが自己認識を深め、障害を乗り越え、自己実現への道を歩むことを助けます。マズローの欲求階層論は、コーチとクライアントが共に目標に向かって効果的に進むためのロードマップとして機能し、個人の成長と成功をサポートする貴重なガイドとなります。

まとめ

アブラハム・マズローの欲求階層論は、人間の動機付けと行動に関する深い理解を提供し、多くの分野における実践的な応用を通じて、現代社会に大きな影響を与えています。この理論は、人間の欲求が生理的、安全、社会的、承認、そして自己実現の5つの階層に分類されると述べています。各階層は互いに関連し、低次の欲求が満たされることで、高次の欲求に焦点を合わせることが可能になるとされています。

ビジネス、教育、心理療法、社会政策、そしてコーチングの分野では、マズローの理論は個人や組織のポテンシャルを最大限に引き出し、幸福と生産性を高めるための実践的な枠組みとして活用されています。例えば、ビジネス界では、従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させるために、欲求階層論を基にしたアプローチが採用されています。教育分野では、学生の全面的な成長を促進するために、安全で支持的な学習環境の確保や、個々の才能の発掘に焦点を当てています。

心理療法では、クライアントが自己認識を深め、個人的な障害を乗り越える手助けとして、欲求階層論が用いられています。社会政策においては、市民の基本的な欲求を満たし、幸福度を高めるための施策の策定に貢献しています。また、コーチングの領域では、個人や組織の目標達成と個々の自己実現をサポートするためのガイドとして欲求階層論が利用されています。

マズローの欲求階層論は、個人の生活、職場環境、社会全体の幸福と成長を促進するための貴重なツールです。この理論は、人々が自己実現への道を歩む過程を支援し、より満足度の高い人生を送るための手助けとなっています。その普遍的な原則は、現代社会においてもなお、個人のポテンシャルを最大限に引き出すための重要な鍵となり続けています。

個人的見解としは、4段階目の承認の欲求の部分で、自身の存在を承認するとも言える自己受容の考えを取り入れることで5段階目のステップへとスムーズに進めると感じています。自尊心という言葉には、行動に対する承認、すなわち何かができれば自らを承認するというような条件付きの承認という印象を受けます。行動と存在を切り離し、自らの存在自体を承認(受容)する自らの態度を育むことで、自己卑下を回避し、建設的且つ理性的な行動を継続できると考えています。

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補足

ここでマズローの心理学において重要な概念であるB価値についても簡単に触れておきます。

B価値とは

アブラハム・マズローは、人間の行動や動機付けを理解するために「B価値」(Being-values、存在価値)という概念を提唱しました。彼はこれらを人間の成長、自己実現、そして心の健康にとって重要な要素と見なしました。B価値は、「欲求階層論」における自己実現的人間に多く見られる価値であると定義されています。以下は、マズローが挙げたB価値のいくつかの例です:

  • 真実:事実や現実を客観的に理解し、歪みのない知識や認識を追求する価値。
  • 善:他者に対する思いやりや親切、倫理的な行動を重んじる価値。
  • 美:美術、音楽、自然など、美的な経験や表現に対する評価。
  • 全体性:異なる要素や思想が調和し、一体となる経験や理解。二分法の超越。
  • 自己充足:他者に依存せず、自らを満たし、自分自身で完結しているという感覚。
  • 遊興:遊びやユーモア、創造的な活動の価値。

マズローは、これらのB価値が人間の経験の深みを増し、より充実した生を送るために不可欠であると考えていました。自己実現の過程では、これらの価値がより重要になり、人々はそれらを追求することで内面的な満足と幸福を得ることができるとされています。

B価値と欲求階層論の関係

マズローの「B価値」(Being-values、存在価値)と彼の「欲求階層論」は、人間の動機付けと成長に関する彼の理論体系の重要な部分ですが、これらは異なる側面を扱っています。

欲求階層論の概要

欲求階層論では、マズローは人間の基本的な欲求を階層化しています。これらの欲求は、生理的欲求(食事、睡眠など)、安全の欲求(安全とセキュリティ)、社会的欲求(愛と所属)、承認の欲求(自尊心と他者からの評価)、そして自己実現の欲求(個人の潜在能力の最大化)に分けられます。マズローは、低次の欲求が満たされることで、人はより高次の欲求に移行すると考えました。

B価値の概念

B価値は、マズローが自己実現に到達した人々が経験すると考えた内在的な価値です。これらは、真実、善、美、全体性、自己充足、遊興などを含みます。マズローはこれらの価値が、自己実現者によって追求され、彼らの経験と世界観を豊かにすると考えました。

両者の関係

欲求階層論の最上層に位置する自己実現の欲求は、B価値と深く関連しています。自己実現の段階に達した人々は、単に生理的、安全、社会的、承認の欲求を超えて、より高次の精神的、哲学的な価値に焦点を合わせるようになります。B価値は、自己実現のプロセスの中で重要な役割を果たし、個人がより深い意味と満足を見出すことを可能にします。

このように、マズローの欲求階層論とB価値は相互に関連し、人間の成長と発達の過程を理解するための包括的な枠組みを提供します。欲求階層論は個人の基本的なニーズを説明し、B価値はその最終段階である自己実現の質と性質を明らかにすることで、より完全な人間の経験の描写に貢献しています。

B価値は自己実現に到達した人のみが追求するものなのか?

マズローのB価値(存在価値)は、特に自己実現した人々によって重視されるとされますが、これらの価値を追求するのは自己実現者に限られるわけではありません。実際、B価値は人間の経験の中で普遍的な要素として存在し、誰もがある程度これらの価値に触れる機会を持っています。

マズローの理論では、自己実現者はB価値をより深く追求し、日常生活の中でこれらの価値を意識的に経験しようとします。彼らは、真実、美、善、全体性、自己充足、遊興などの価値を生活の一部として取り入れ、これらを通じて自己の成長と発展を促進します。

しかし、自己実現に到達していない人々も、日常生活の中でこれらの価値を体験することができます。例えば、自然の美しさに感動したり、善の行いによって満足感を得たり、真実を求める探求に関わったりすることは、誰にでも起こり得る経験です。これらの体験は、人々が自己実現に向かって進む過程で、より頻繁かつ深くなる傾向があります。

したがって、B価値は自己実現者によってより強く追求されるものと言えますが、それらは人間の経験の一部として、すべての人にとって重要な価値です。それぞれの人が自己実現に近づくにつれ、これらの価値に対する意識と追求の度合いは高まると言えるでしょう。

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