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過剰正当化効果とは?心理学で見るモチベーションへの影響とコーチングでの注意点
過剰正当化効果(Overjustification Effect)とは、外部からの報酬が内発的なモチベーションを低下させる心理学の現象です。人が本来楽しんで行っていた活動に対して何らかの形で外部から報酬を与えられると、その活動を行う動機が外発的な報酬に置き換わり、報酬がなくなると以前ほどその活動を楽しめなくなることがあります。この心理的影響は、教育、職場、さらには私たちの日常生活においても見られ、私たちの行動やモチベーションに大きな影響を及ぼします。
では、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?心理学者たちは、外部報酬が内発的な喜びや達成感を奪うことで、活動自体の価値が低下すると説明しています。例えば、子供が絵を描くことが好きで、それ自体が報酬だったとします。しかし、絵を描くたびに親から褒められたり、ご褒美をもらったりすると、子供は絵を描く楽しさよりも報酬を得ることに焦点を合わせるようになります。結果として、ご褒美がないと絵を描くモチベーションが著しく低下してしまうのです。
このブログでは、過剰正当化効果の心理学的な背景、実生活での具体例、コーチングセッションでの注意点、そしてこの効果を理解し、適切に対処する方法について解説します。仕事、学習、趣味など、様々なシーンで内発的なモチベーションを保つことの重要性を理解することで、私たちはより充実した生活を送ることができるようになるのでご興味のある方は是非最後までご覧ください。
過剰正当化効果(Overjustification Effect)の基本概念

過剰正当化効果(Overjustification Effect)は、外部からの報酬が内発的モチベーションを減少させることにより、人が活動を楽しむ度合いが低下するという心理学の現象です。この概念は、心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンによって1980年代に提唱された自己決定理論(Self-Determination Theory)に基づいています。自己決定理論は、人間のモチベーションが内発的(自分の内面から湧き上がる動機)と外発的(外部からの報酬や圧力による動機)の二つに分かれると説明しています。
内発的モチベーションは、個人が活動そのものから喜びや満足感を得る場合に生じます。これは、趣味、学習、スポーツなど、報酬や承認を目的としない活動において顕著に見られます。一方、外発的モチベーションは、報酬、評価、罰など外部からの刺激に反応して活動を行う動機付けです。
過剰正当化効果は、外発的報酬が提供されることで内発的モチベーションが低下し、結果としてその活動に対する興味や関与が減少するという現象を指します。具体的な研究例として、子どもたちに対して好きな活動(例えば、絵を描くこと)を行わせ、その行為に報酬を与えた場合、報酬がなくなると以前よりもその活動を行う頻度が低下することが示されています。この現象は、個人が活動を行う理由を内発的なものから外発的な報酬へと移行させることで、本来の活動の喜びが損なわれるために起こります。
過剰正当化効果に関する研究は、教育、職場、スポーツ、芸術など、多岐にわたる分野で実施されています。例えば、教育分野では、学生が興味や好奇心から学習する内発的モチベーションが、成績や報酬によって左右されると、学習への興味が低下することが指摘されています。職場での適用例としては、従業員が仕事を通じて感じる達成感や満足感が、報酬やボーナスに焦点を合わせることで低下する場合があります。
過剰正当化効果を理解することは、モチベーションを管理し、個人やチームのパフォーマンスを最大化する上で重要です。内発的モチベーションを促進するためには、活動自体の楽しさや満足感を重視し、外発的報酬の使用を慎重に考慮する必要があります。また、個々人の興味や価値観に合わせた報酬を設定することで、過剰正当化効果のリスクを軽減することができます。
過剰正当化効果を理解することは、私たちがどのようにしてモチベーションを内発的に維持し、外部報酬に頼らずに活動の喜びを最大化するかについて、貴重な洞察を提供してくれると言えるでしょう。この知識を活用することで、学習、仕事、趣味など、生活のあらゆる側面で内発的な喜びと充実感を高めることが可能となります。
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日常生活での適用例

過剰正当化効果は、日常生活のさまざまな側面において、私たちのモチベーションと行動に影響を与える心理学的な現象です。この効果を理解することは、私たちがどのように動機付けられ、行動するかを深く理解し、改善するための鍵となります。以下では、この効果が日常生活にどのように適用されるかについて、具体的な例を挙げて説明します。
教育分野での適用例
子供たちは本来、学ぶこと自体に興味、関心、喜びを見出します。しかし、現代の成績や報酬を重視する教育体系は、過剰正当化効果により、学習に対する内発的なモチベーションを損なう可能性があります。例えば、読書を楽しむ子供に対して「読んだ本の数に応じて報酬を与える」という制度を導入すると、子供は報酬のためだけに読書をするようになり、読書そのものの楽しさが薄れてしまいます。このように、外部からの報酬が学習活動の主な動機となると、学習への興味や熱意が減少する可能性があります。
職場での適用例
職場でも、過剰正当化効果は重要な意味を持ちます。従業員が仕事に対して高い内発的モチベーションを持っている場合、彼らは仕事そのものから満足感や達成感を得ています。しかし、業績に基づく報酬やボーナスが過度に強調されると、従業員は報酬を得ることに焦点を合わせ、仕事の内発的な価値を見失うことがあります。これは、長期的には従業員の仕事への熱意や創造性を減少させる可能性があります。
趣味やスポーツでの適用例
趣味やスポーツは、通常、内発的なモチベーションによって行われます。人々は、楽しさや個人的な成長のためにこれらの活動に参加します。しかし、これらの活動に外部からの報酬が絡むと、活動への純粋な喜びが損なわれることがあります。例えば、趣味で写真撮影を始めた人が、自分の作品がコンテストで賞を獲得した後、賞や承認のためだけに写真を撮るようになり、撮影自体の楽しみを忘れてしまうことがあります。
健康とフィットネスでの適用例
健康やフィットネスに対するアプローチも、過剰正当化効果の影響を受けやすいと言えます。運動をする主な動機が体重減少や体形維持のための報酬に置き換わると、運動そのものから感じる喜びや満足感が低下する可能性があります。これは、長期的には運動習慣の継続性を損なうことにつながります。
まとめ
過剰正当化効果は、教育、職場、趣味、健康といった日常生活の多くの側面に影響を及ぼします。この効果を理解し、内発的モチベーションを維持するための戦略を実践することは、私たちが活動から得る喜びと満足を最大化するために不可欠です。外部からの報酬に依存せず、活動そのものに対する価値と意味を見出すことが、真の充実感へと繋がるのです。
対策と応用

過剰正当化効果は、外部報酬が内発的モチベーションを低下させる現象であり、この効果を理解し、適切に対処することは、教育、職場、個人の成長など様々な分野での成果を最大化する上で重要です。以下では、過剰正当化効果を軽減し、内発的モチベーションを維持するための対策と応用について解説します。
教育分野での対策
- 学習プロセスの楽しさを強調する:教育者は、学習内容が生徒にとってどのように意味があるかを示し、学習活動自体の楽しさや興味を引き出すことに重点を置くべきです。
- 自己決定の促進:生徒が自分自身の学習目標を設定し、学習方法を選択できるようにすることで、内発的モチベーションを高めることができます。
- 適切なフィードバックの提供:報酬ではなく、具体的で建設的なフィードバックを通じて、生徒の学習過程と努力を認知することが重要です。
職場での応用
- 業務の自律性の向上:従業員に一定の自由度と選択肢を提供し、自分の仕事の方法やプロジェクトに関する決定を下せるようにすることで、内発的モチベーションを促進します。
- 目的と意義の明確化:従業員が自分の仕事が組織の目標や社会にどのように貢献しているかを理解することで、仕事への情熱とモチベーションを高めることができます。
- 適切な報酬システムの設計:報酬は、従業員の努力と成果を認識するための一つの手段ですが、内発的モチベーションを損なわないよう、慎重に設計されるべきです。報酬は、特別な成果や困難な目標達成に対してのみ提供されるべきであり、日常の業務に対しては、認知と感謝の表現に重点を置くことが望ましいでしょう。
個人の成長と自己改善での対策
- セルフリフレクションの習慣化:自分自身の内発的な動機と外発的な報酬に対する依存度を定期的に評価し、自分の行動と目標を調整することが重要です。
- 目標設定の技術の活用:SMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性があり、時間的に限定された)目標を設定することで、内発的なモチベーションを維持し、自己成長を促進することができます。
- 内発的報酬の認識:自分自身の達成感、成長、学習の喜びなど、内発的報酬を意識し、価値を見出すことが、長期的なモチベーションの維持に役立ちます。
過剰正当化効果に対処するためのこれらの戦略と応用は、教育、職場、個人の成長など、さまざまな文脈で内発的モチベーションを維持し、促進するための基盤となります。重要なのは、活動そのものから価値と満足を見出し、外部報酬に依存せずに、自らの内発的な動機を理解し、育むことです。
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過剰正当化効果からみるコーチングセッションの注意点

コーチングセッションでは、クライアントの自己認識を深め、継続的な自己成長や目標達成に向けて彼らをサポートすることが主な目的です。しかし、過剰正当化効果の観点から見ると、コーチングのプロセスにおいては、クライアントの内発的モチベーションを支えることが非常に重要であると同時に、それを誤って弱めてしまうリスクも伴います。この記事では、コーチングセッションにおける過剰正当化効果からみる注意点について解説します。
内発的モチベーションの重要性
コーチングにおいては、クライアント自身が持つ内発的モチベーション、つまり自分自身の成長や達成感からくる動機付けを最大限に活用することが重要です。内発的モチベーションが高いクライアントは、自己決定能力が高く、自分自身で設定した目標に対するコミットメントも強い傾向にあります。このような動機付けは、外部からの報酬や承認に依存する外発的モチベーションよりも、長期的な行動変容や継続的な成長を促す上で有効です。
過剰正当化効果のリスク
コーチングセッションにおいて、過剰正当化効果のリスクを避けるためには、コーチがクライアントに与える承認の種類と量に注意を払う必要があります。例えば、セッションでの目標達成や進捗に対して過度に賞賛を与えると、クライアントはその承認を得るために行動するようになり、本来の目標達成や自己成長に対する内発的な動機付けが弱まる可能性があります。これにより、コーチングの効果が低下する恐れがあります。
コーチングにおける対策
- 自己決定の促進:クライアントが自分自身の目標や行動計画を決定する過程をサポートし、彼らの選択と自己決定能力を尊重することが重要です。これにより、内発的モチベーションを強化し、自主性と責任感を促進します。
- プロセスに焦点を当てる:結果だけでなく、学習プロセスや努力を認知することで、クライアントが自分自身の成長を実感できるよう促します。これは、内発的な達成感を高める効果があります。
- 適切なフィードバックの提供:建設的で具体的なフィードバックを通じて、クライアントの自己認識を深め、彼らが自分の行動や思考パターンを理解し、必要に応じて調整できるようにします。
- 内発的報酬の強調:必要に応じて、クライアントが目標達成の過程で感じる満足感や達成感などの内発的報酬を強調し、外部からの報酬や承認に依存しないモチベーションの重要性を伝えます。
コーチングセッションにおいては、クライアントの内発的モチベーションを維持し、強化することが持続的な成長への鍵です。過剰正当化効果のリスクを理解し、適切な対策を講じることにより、コーチはクライアントの自己成長を最大限にサポートすることができます。内発的な動機付けが強いクライアントは、自分自身の目標に対してより深いコミットメントを持ち、長期的な成長を実現する可能性が高まります。
まとめ

過剰正当化効果とは、外部からの報酬が内発的モチベーションを減少させることによって、人が行動や活動を楽しむ度合いを低下させる心理学的な現象です。この効果は、教育、職場、個人の趣味や健康管理など、生活の多岐にわたる分野において重要な意味を持ちます。内発的モチベーションは、長期的な成果と持続可能な行動変容に不可欠であるため、過剰正当化効果の理解と適切な管理は、個人や組織の成長を支援する上で極めて重要です。
対策としては、自己決定の促進、プロセスへの焦点の当て方、適切なフィードバックの提供、そして内発的報酬の強調が挙げられます。これらの対策は、教育者、リーダー、コーチのような対人支援者だけでなく、個人が内発的モチベーションを維持し、強化する際にも有効です。
特に、コーチングセッションでは、クライアントの自己決定能力を尊重し、内発的モチベーションを促進することが、目標達成と自己成長をサポートする鍵となります。過剰正当化効果に対する深い理解を持つことで、コーチはクライアントが自分自身の価値観や興味に基づいて動機付けられるよう支援し、長期的な成長を実現するための戦略を提供できます。
このように、過剰正当化効果を避け、内発的モチベーションを促進するための戦略を積極的に取り入れることは、教育、職場、個人の成長のあらゆる側面で、より効果的な成果を生み出すための基盤となります。皆さんも是非、ご自身の現場で試してみてください。
コラム:過剰正当化効果を実証したレッパーらの研究
過剰正当化効果に関する議論を深める上で、心理学者マーク・レッパー(Mark Lepper)らによる有名な研究があります。この実験は、外部報酬が内発的モチベーションに与える影響を実証し、過剰正当化効果の基礎を築いたものです。
レッパーらの実験概要
1973年、レッパー、グリーン(David Greene)、ニスベット(Richard E. Nisbett)は以下のような方法で研究を行いました:
- 対象: 幼児(3歳~5歳)。
- 好きな活動の確認: 子どもたちがもともと楽しんで行っている活動(絵を描く)を選択。
- グループ分け: 以下の3つの条件で実験を実施。
- 期待される報酬のグループ: 子どもたちに「絵を描いたら報酬(証明書)がもらえる」と伝える。
- 予期しない報酬のグループ: 報酬を事前に告知せず、絵を描き終えた後でサプライズとして証明書を渡す。
- 報酬なしのグループ: 報酬は一切与えない。
実験結果と示唆
- 内発的モチベーションの低下: 「期待される報酬」のグループでは、後日、自発的に絵を描く頻度が著しく減少しました。報酬が与えられなかった場合、その活動の楽しさが失われたためと考えられます。
- 予期しない報酬の効果: 一方、予期しない報酬のグループや報酬なしのグループでは、絵を描く頻度に変化は見られませんでした。サプライズ報酬は、内発的モチベーションを損なわないことが分かりました。
実生活への応用
この研究は、外部報酬が内発的モチベーションに与える影響を示すだけでなく、報酬の提供方法がその効果を大きく左右することを教えてくれます。
- 教育分野: 学生の学習意欲を削がないように、予期しないフィードバックやサプライズ報酬を活用する。
- 職場: 従業員の創造性を維持するために、定期的なボーナスよりも、意外性のある評価や感謝の表現を取り入れる。
参考文献
- Lepper, M. R., Greene, D., & Nisbett, R. E. (1973). “Undermining children’s intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the ‘overjustification’ hypothesis.” Journal of Personality and Social Psychology, 28(1), 129–137.
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